くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イノセント・ガーデン」「明日への盛装」「愛染かつら」(

イノセントガーデン

イノセント・ガーデン
非常にスタイリッシュで上品に作られたサイキックホラー映画でした。映画がはじまってからエンドタイトルまで、一時も目が離せないほどに緻密に作り込まれたなまめかしい映像感覚に、陶酔感を通り越して、見終わってからぐったりと疲れきってしまう充実感が漂う秀作です。ハリウッドホラーでもジャパンホラーでもない、似ているとすれば北欧ホラーの不気味な中に漂う非現実的な存在感でしょうか。
オールド・ボーイ」のパク・チャヌク監督ハリウッド・デビュー作である。

映画が始まると、車から一人の女が降りてくる。一瞬ストップしたようなカットの後、その女は草むらの中へ進む。背後に巧みに埋め込まれたオープニングクレジット。真っ赤に染まった花のカット、進んでいく女のショット、そして、クレジットが終わりに近づくと、女は少女になり、木の幹におかれた誕生日プレゼントの箱を開けるが、そこになにもなくて、一本の鍵。今日は彼女の18歳の誕生日で、バースデーケーキがテーブルに。それを真上からとらえてメインタイトル。

ところが、この日、父リチャードが交通事故でなくなり、場面は葬儀のシーンへ。墓地で、逆光で立つ一人の男チャーリー。彼はインディアの叔父らしく、今まで姿をくらましていたらしい。物語はこの謎の叔父チャーリーと母イヴリンの怪しい関係を中心に、彼らを見つめる異常に聴覚の鋭いインディアの描写とともに進む。

カメラが独特で、ゆっくりと引いたかと思わせると、大きく俯瞰してみたり、鏡を使ったりと、ちょっと独創的な映像で不気味なムードを盛り上げていく。合間に思春期のインディアのどうしようもない欲情をスクリーンに漂わせるかのように、太股を昇る蜘蛛のシーンなどのエロティックなショットも、不思議なムードを生み出す。

そこへやってくる大叔母ジン。最初は相続の関係で乗り込んできたかに見えるが、チャーリーの姿に驚き、モーテルで夜を過ごすことになるが、公衆電話ボックスでチャーリーに殺される。このあたりから、次第にチャーリーが単なるイヴリンの愛人という存在ではないことに気がつく。さらに、ピアノが初心者だと紹介されるが、イヴリンのいないときにインディアと体を寄り添ってピアノの二重奏をしたりする艶めかしいシーンも登場。

終始、この屋敷の中での物語かと思われたが、突然インディが学校へ行くシーン。変わり者とからかわれたインディに一人の青年ホイップが近づく。そんな様子をじっと見つめるチャーリーがまた不気味なのである。

ある夜、チャーリーとイヴリンが抱き合っている場面をみたインディアは、自分の欲望を抑えられず、夜の森へ。そのそばでホイップと出会い、彼を森に誘う。ところが、さてこれからというところでホイップを無碍にし、それに怒ったホイップがインディアを押し倒すが、そこにチャーリーが現れ、なんとホイップを絞め殺す。それをみたインディアは自宅に帰りシャワーを浴びながらオナニーをする。

このあたりからチャーリーとインディアへ視点が移り始める。父リチャードの書斎の机をみていたインディアは、一カ所開かない机を見つける。そして、誕生日のプレゼントの箱に入っていた鍵で開いてみると、自分宛の大量の手紙。差出人はチャーリー。さらに、途中から病院から出していたことに気がつく。

かつて、リチャードとチャーリーの兄弟にもう一人子供がいて、幼い頃、チャーリーはその子供を砂浜に埋めるという異常行動を起こしたために病院へ入ったらしい。そして、その退院の日、リチャードが迎えに行き、車の中でリチャードはチャーリーに殺されたのだ。そして、チャーリーはインディアにも自分と同じ血が流れていると知っていて、近づいてきたのである。

18歳になったインディアにチャーリーがプレゼントしたのはそれまで贈っていたそこの平らな靴ではなくハイヒールである。それをはいて、一人立ちしたことを自覚するインディアの微妙なシーンがこれまた不気味。

チャーリーはインディアを誘ってニューヨークに行こうとし、それを見つめるイヴリンはチャーリーを引き留めようと体を与える。ところが、そこでチャーリーはイヴリンを絞め殺そうとする。そして、事が成就する直前、インディアが猟銃を持って現れ、チャーリーを撃ち殺す。そして母を残して、荷物を持ち、父のサングラスをかけ、チャーリーの乗っていた車で旅立つ。後ろから、パトカーが迫る。

降りてきた保安官をはさみで刺し、草むらに逃げる保安官を猟銃をもって追うのである。ここからが冒頭のシーンで、保安官の首から飛び散る血が白い花を染め、ゆっくりと車をおりて近づいていく。そして、ねらいを定め引き金を引いてエンディング。

独特のリズムで描かれる映像は、かなり個性的であり、悪くいうと、息を抜く暇もない肩の凝る演出スタイルである。

庭に殺した人を埋めて、丸い石のようなものをおいていく。まさに墓地である。これが題名の意味なのだと思う。

夜の公園で、インディアがホイップを誘うときに滑り台の上に立つインディアをカメラがぐーんととらえていくシーンなど、ありそうでないカットでもある。

ちょっと異質で、それがパク・チャヌクの感性であると呼べるミステリアスで恐ろしいサイコサスペンスであった。ただ、ラストシーンの後の余韻は何も見えてこない。はたして、彼女は異常者という設定なのだろうか。研ぎすまされた聴覚が生み出す、人並みはずれた感覚を満たすための殺人であるのか、様々な解釈で締めくくられるが、全く無駄のないホラー映画の秀作として位置づけてもいい一本でした。


「明日への盛装」
非常にテンポのいい、小気味良い佳作でした。本当に楽しくぽんぽんと物語が展開していく。しかも、台詞の応酬が実に見事で、間合いといい、言葉の端々に見え隠れするほんのわずかな間のおもしろさに、いつの間にかたわいのないお話に引き込まれていく。

時は皇太子が成婚し、世間がプリンセスストーリーに沸き上がっている時代。田舎の床屋の娘ひづるが親に黙って東京の修学院大学に入り、玉の輿をねらって、男たちを物色していくというコメディである。

当然ながら、金持ちと思っていたら、ただの町工場の息子だったり、妙に世間離れしたお嬢様や、気っぷのいい働き者たちが右に左に主人公ひづるを翻弄していく。

映像的にも横長の画面のど真ん中に主人公を配置させたりと、ある意味ドキッとするほどの構図を当たり前のようにとる。あたかも世の中の中心が私なのよといわんばかりの映像演出である。

しかし、当然の事ながら、玉の輿になど乗れず、この人と思った若者高倉は、ただの自転車の部品の町工場の貧乏会社の息子。逃した男伍堂は華族の娘と結婚、そんな結婚式をクライマックスに、一人、洗濯板で洗濯をするふづるのところに、披露宴から帰ってくる夫高倉。そして、子供ができたことを告げ、夫の喜ぶ姿に、ささやかな幸せのなんたるかを知ってほほえむ。

高倉の大家族の食卓へ入る二人。山盛りに入れたご飯をほうばるひづるのアップでエンディング。ほほえましいほどのラストシーンが爽快で、玉の輿ねらいの主人公に好感は持てないようなシーンをちりばめながらも、どこかにくめないキャラクターとして描く中村登の演出が秀逸。

やっとつかんだ男高倉の両親に歌舞伎座の食堂で会う場面で、いきなり両親にふづるの素性をずけずけ言われ、ショックで飛び出すひづるのカットが、一気に斜めの構図になる下りはある意味、サスペンスフルでさえあり、それまでののほほんとした演出を一気に畳みかけるようにそのままラストシーンへ引っ張る構成のうまさにもうなるものがある。

ふつうの映画かと思ってみていたのですが、思いの外レベルの高い映画でした。いやぁ、楽しかった。


「愛染かつら」(中村登監督版)
今更いうまでもなく、大ヒット映画のリメイク作品である。物語はシンプル。すれ違いと誤解のてんこ盛りのストーリー構成で、観客の心をつかんでラストシーンまで引っ張っていく。

ある意味、娯楽映画のエッセンスの固まりといえば、まさにその通りで、見方を変えると、今の映画産業が忘れてしまったものが詰め込まれている気がします。

オリジナル版を見ていないのですが、さすがにこの時代の映画は、二番煎じのリメイク映画にも関わらず、映画の画面になっているからすごいですね。
横長のシーンを有効に利用した、大きく見せるカットがふんだんにでてくる。それだけでも、見る値打ちが十分。しかも、50年近く前の京都や東京の風景を見られるだけでも古い日本映画を見る楽しみを十分に味わえました。

津村病院の院長の息子津村浩三が、父に反発して、病院の看護婦高いしかつ江と懇ろになってしまう。一気に確信の話になだれ込むのは、あらかじめ、オリジナルを知っている観客を意識してのことでしょう。

そして、かつ江には死んだ夫との間に子供がいて、それを隠している。それが妙な誤解を生む上に、京都へ津村が誘ったものの、たまたま子供が熱を出して、約束の時間に東京駅へ行けず、そこからすれ違いと誤解のドラマがどんどん進んでいく。

ラストは、自作の歌詞が歌謡番組で入選したかつ江は歌手としてでビュー、津村は様々な誤解が解けてめでたくハッピーエンド。さすがに、今となっては時代遅れの設定や展開がでてくるとはいえ、基本的なお涙ちょうだい、はらはらドキドキをきっちりと押さえた脚本のうまさは認めてしかるべきものです。

決して、映画作品としての質の善し悪しは問題にできないけれど、一見の値打ちのある一本でした。オリジナル版を見たくなりました。