くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「わが恋の旅路」「インポッシブル」「爽春」

わが恋の旅路

「わが恋の旅路」
寺山修司脚本、篠田正浩監督作品であるが、何とも甘ったるいラブストーリーで、こういう映画もこのコンビが作っていたのかななんて思うと、それも楽しい。

物語は、主人公でジャーナリストの石橋がバーで酒を飲んでいると、ラジオから女性が水面に浮かんでいたという事件のニュースが流れている。それが、かつて愛した東千江かもしれないと思った彼は雨の中タクシーを拾って病院へ向かう。そのタクシーの中で彼が彼女との出会いを回想していく。

ギャンブル好きの父親を抱えてカフェで働くちよとであっったのはまだまだ駆け出しの頃の石橋。やがて引かれあうも、千江に気がある金持ちの男木村が千江と結婚してしまう。しかし、千江はある日、交通事故で記憶喪失になり、その入院先に出向いた石橋は様々な手段で最後は彼女の記憶を取り戻しハッピーエンド。

たわいのない物語で、展開もこれという斬新なものも、映像も普通である。このコンビでこの普通さがよけいに珍しい一本といえばそういえる映画だった。


「インポッシブル」
真っ暗な画面で、ゴボゴボと水の中のような音、さらに何かがぶつかるよう直人の後画面は一気に真っ青な空海の上を一気のジェット機が手前から向こうに見える島に向かってものすごい轟音で飛んでいく。まるでスペクタクル映画のファーストシーンを思わせるオープニングにまず驚く。
監督は「永遠の子供たち」のJ・A・バヨナである。

飛行機の中ではタイでバカンスを過ごすベネットファミリーが乗っていて、時折揺れる乱気流に驚きながらもアットホームなシーンが続く。

着いたのはタイのリゾートホテル。早速プールで遊んだりする。夕焼けの真っ赤なシーンや夜空に光る星のショットなど、映像へのこだわりが実に強いのがこの作品の特徴である。

ところが、突然津波がこのホテルをおそう。大スペクタクルと呼べるような津波シーンで一気に家族は水の中に飲み込まれる。CGを多用し、臨場感と、悪くいうとエンターテインメント性を強調したようなシーンに、ふと実話の映画化という気持ちが心をよぎって、さめるところもないわけではありません。

長男のルーカスと母マリアが流され、瀕死の思いでなんとか落ち着く。二度の津波シーンの迫力が恐怖を誘うが、一段落して俯瞰でとらえるシーンの方がぞくっときます。途中、ダニエルという幼い少年を助け、医師でもあるマリアが息子ルーカスに命の大切さを伝える。このダニエルは避難病院で父に再会する場面にルーカスが出会い、成長した自分に感動するとともに、ラストでシンガポールに向かう家族のシーンでも母に伝えて抱き合うシーンへつながる。

マリアは重傷で、何とか現地の人に助けられ、近くの避難病院へ。そこでルーカスと二人の物語を中心に前半は展開。中盤から父ヘンリーが息子トーマスとサイモンの二人を見つけ、マリアを捜しにでるストーリーに続く。

マリアが収容された病院にやってきたヘンリーがルーカスを見つける下りのすれ違い劇、さらにサイモンやトーマスとの再会、最後の最後にマリアと再会するシーンはかなりあざといテクニカルな脚本構成になっているとはいえ、これはあくまで実話を元にしたフィクションだと割り切れば、受け入れてもいいかもしれない。ただ、ちょっとやりすぎのきらいは否め内部分がこのシーンではないでしょうか。

結局、マリアの応急手術も成功し、家族はそのままシンガポールの病院へ旅立つシーンでエンディング。途中、いくつかの家族のエピソードも挿入されるが、基本的に死を描写した悲劇的なシーンは皆無に等しい。それは、あくまで身動きできないマリアの視点で物語が進行するためではないかと思える。

横長の画面のど真ん中に光る夜の月のシーン、冒頭で不気味に海側から島を見つめるようなシーンなど、かなり映像にこだわりというか、技巧を施しているのだが、果たして悲劇の実話にここまでの美学は必要かという疑問が生まれないわけではない。何か引っかかるとすればこの表現方法だろうか。

終盤にでてくるしわしわのおばあちゃん、ジュラルディン・チャップリン?と思ったら、やっぱりそうだった。

とはいえ、全体に非常にうまくまとめられ、あくまで実話とはいえフィクションと割り切った演出で描かれるという意味でちょっとした佳作だったと思います。


「爽春」
これはいい映画でした。ラストシーンもしんみりと心に響くものがありました。名作の貫禄のいっぽんかもしれませんね。

映画は木川亜矢子が九州旅行するためのお金を、おやが親友同士の娘安藤由利子に借りるべく電話しているシーンに始まる。百科事典を担保にするというあたり時代色満点の導入部。ところが、二回の窓から髭を生やした男が入り本を盗もうとする。実は彼は亜矢子兄竜男である。

コミカルに始まる導入部。物語は会社の重役の安藤修一と親友で小学校の校長の木川万三郎の二人の父とその娘二人の恋を絡めたお話である。
亜矢子は旅費のために由利子が以前勤めていた会社のタイプのアルバイトをすることにし、そこで小林という調子のいい青年に付きまとわれる。一方の由利子はかつての恋人で、今は妻子のある緒方と交際をしている。前半の展開は小林がとにかく強引に亜矢子に迫る様子をコメディタッチで描いて行くので、どうなることかと思うのですが、合間合間に木川と安藤の小料理屋でのシーンがどんどん膨らんできて、さらに由利子の不倫も徐々に表になってくるにしたがってお話が深みを帯びて実にいい展開に変わってくる。

終盤は小林は亜矢子と結婚することに、由利子と緒方の会っているところを見つけた安藤は木川と小料理屋でつぶれるまで飲み、お互いの家に入れ替わって帰る。そこで、木川の妻菊のはからいで仲直りするのだが、キクと木川の姿を見た安藤は、妻を亡くしての10年間を反省し、由利子に自由にすれば良いと縁側で切々と語る。このシーンが絶品で、さすがに山形勲の演技は見事だし、有島一郎との掛け合いも素晴らしい。山形勲の言葉に泣き崩れる岩下志麻も最高である。

クライマックス、小林と亜矢子の結婚式、帰り道、緒方と別れたという由利子と父安藤が二人で歩いて行くシーンでエンディング。このあたりまで来ると、前半部分のドタバタ劇のような導入部に、どうなることかと思ったがいつの間にか、大人のホームドラマになって引き込まれている自分がいました。いい映画でした。