くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「スプリング・ブレイカーズ」「百年の時計」

スプリングブレイカーズ

スプリング・ブレイカーズ
ビデオクリップのような映像感覚と、個性的な編集を多様、一見独創的であるように思える映像であるが、登場人物の心理変化が描き切れていないために、ちりばめられた写真の羅列に見えてしまったのが残念。

ハイテンポな音楽にのって、派手なデザイン文字によるタイトルクレジットが流れる。カットが変わると水着姿というか、ほとんど裸に近い若者たちが乱痴気騒ぎをするシーンがあふれ、そこにメインタイトル、そしてとある大学の寮であろうか、学生たちがドラッグをすい、適当な講義にでて、自堕落で目標の見えない学生生活を送っているシーンが続く。主要人物の紹介はまるでないここのシーンが妙に長い。

そして、フェイス、キャンディ、ブリット、コディの四人の女子大生に次第にカメラが集まる。まもなくやってくるスプリング・ブレイク、いわゆる春休みに四人で旅行に出かけたいが金がない、一番まじめなフェイス以外の三人が強盗をして、金を作るのだ。カメラはほとんどモンタージュという手法を無視し、空間と時間を細かくカットを入れ替えながら、時に強盗シーンのように、車の中からのワンシーンワンカットなどで描写していく。

そして、やってきたビーチで四人は羽目を外し、トップレスでほとんど裸に近い姿で遊び放題するのである。しかし、これだけ羽目をはずしているのにSEXシーンが皆無、いやこの作品、最後までほとんどといっていいほど、男女の交わるシーンはない。

ところが、あるパーティで、麻薬をしている男たちと一緒だったために四人は警察に。しかし、誰かが罰金を払ってくれて彼女らは釈放される。払った男はエイリアンと名乗るいかにも悪い奴という出で立ちの男。ここからがこの映画の本編だが、時間的に半分はきている。この物語構成のバランスがちょっとよくない。

そして、罰金を払った理由が、この男がこの四人がまともで、引かれたからだという。しかもこのあと、この男はこの女の子(最初にフェイスが先に帰ってしまう)三人と強盗まがいをして好き放題し始めるが、いったいこの展開はなに?この男の心変わりの理由は?いかにも違法なことで金持ちになっているらしいこのエイリアンという男がなんで、こんな小娘といまさら一緒に夢中になるの?である。

この地域の縄張りにしている黒人の男がエイリアンを脅し、一人が撃たれる。そして彼女は帰るのだが残った二人とエイリアンがその黒人の屋敷をおそって彼を撃ち殺す。これだけの組織のボスの家にど素人の女の子二人が易々と入って男を撃ち殺す?ここにも無理がある。

結局エイリアンもその時に死に、スプリング・ブレイクは終わってエンディング。

全体にまず、ストーリー展開に無理がありすぎ。もちろん、徹底的なリアリティは必要ないが、あまりに非現実的だと興ざめしてしまう。裏社会を牛耳っているようなエイリアンが、高々15歳ほどの小娘に翻弄され、曳かれ、つまらない強盗をすること、この地域のボスの黒人がいかにも簡単に殺されてしまう。いったい警察はなにをするのというほどで存在感がないし、あれだけドラッグ漬け、アルコール漬けの場所で裸同然に遊び回るのに,SEXが全く絡まないのは不自然すぎる。しかも、エイリアンはいかにも悪者なのに、ほとんど疑いなく四人の女の子はおぼれていく(まぁ、三人ですが)。いくら、バカな女子大生でも非常識でしょう。

私は基本あんまり、ストーリー展開や設定にはこだわらずに映像作りを楽しむのですが、あまりにもこのあたりの組立が弱い上に、登場人物の心理を描いていないので、気になって、入り込みきれなかった。確かに、ストーリーはわかるのだが、エピソードのバランスが悪い。音楽センスはいいが、映像がリズムに乗っていない。人物の心理描写につながりがないので、物語が流れていかない。個性的だけでは映画は作れない。

賛否両論かもしれませんが、おもしろい作品ながら、個人的にはあまり好きではないですね。


「百年の時計」
映画を見ていると、決して傑作とか名作でなくても、とっても好きになる映画がある。そんな一本がこの作品でした。
監督は大好きな金子修介である。

物語は香川琴電の創業者が持っていた懐中時計を介して描かれるはかない初恋の物語を中心に、日本が歩んできた歴史を振り返るというものです。

911年、大阪で一つの懐中時計が作られるシーンから映画が始まる。
場面が変わって、美術館の学芸員涼香が自転車で走っている。ようやく飛び乗った電車は今年100周年を迎える琴電、運転するのは恋人の建治。彼女はこれから香川県が生んだ世界的な前衛芸術家安藤行人を迎えに空港へ行く。

こうして始まる物語であるが、前半は淡々と進む。偏屈な安藤を何とかなだめて回顧展と新作を創作してもらおうと必死になる涼香のコミカルな姿。しかし、開巻まもなく、安藤は一つの懐中時計の持ち主を捜してくれという展開へ流れていく。無駄のない導入部で、その後描かれる時計にまつわるミステリアスな部分もさらりと流す。

そして、その持ち主の女性由紀乃と行人の若き日の初恋物語へと進む展開が実に小気味よくスピーディ。

安藤がまだ青年の頃琴電にのって採石場へ仕事に行っていたが、その電車の中で勝ち気で近代的な考え方の持ち主ながら、父の事業の失敗から望まないままに金持ちの家に嫁いだ由紀乃にであう。芸術にも造詣のある由紀乃は画家を目指す安藤と意気投合、二人はいつの間にか愛し合うようになるが、所詮かなわぬ恋、東京へ旅立つ安藤に由紀乃は大切にしていた懐中時計を手渡す。

安藤は新しいインスタレーション琴電を利用し、100年の歴史を電車の中で体験してもらうという企画を提案。クライマックスは、電車の中で紡がれていく100年の歴史のシーンとなる。

窓に歴史の出来事の写真が貼られ、次々とそれが入れ替わる。乗ってくる人々が当時の様々な出来事を再現する。戦争、オリンピック、万国博、バブル、そして最後に安藤と由紀乃の初恋が語られていくのである。
このシーンは、いつの間に胸が熱くなるような見事なモンタージュで観客を引き込んでくれる。誰もが感じ、体験し、涙し、驚喜したさまざまな時間を共有していくのです。

空間をジャンプさせ、背後のシーンをカットとカットで展開してつないで、背景が次々と時間や空間を越えていく様はなかなかのもので、これが映画のリズムと呼べるものではないでしょうか。

特に、懐中時計が誰の元にわたったかと探すシーンから、由紀乃と安藤のラブストーリーを発見し、涼香がそのことで安藤に詰め寄る場面。それまで淡々とつながれていたフィルムのリズムが一気にハイテンポに変わる。そしてその後クライマックスへなだれ込むのである。

終着駅についた電車から降りてきた安藤はそこで、涼香の父が探してきた現在の由紀乃と再会抱き合う。涼香と建治も新たな思いで恋を語り、イベントは大成功。

病気でベッドに横たわる安藤のかたわらにはリンゴを剥く由紀乃の姿。琴電が走る様子を俯瞰でとらえてエンディングである。

由紀乃の若き日を演じた中村ゆりという女優さんが実に素敵で、とってもいい。

ちらほらと欠点が見え隠れする映画ですが、序盤でしっかりと観客をつかんでしまうので、そのあたりの粗は無視してどんどんクライマックスへ引き込まれていく。なんといっても、琴電の中で繰り広げられる昭和の歴史がすばらしく、それに絡めて安藤と由紀乃、涼香と建治のラブストーリーが重なる様は絶品。

なにもかも完璧とは呼べないものの、とっても素敵な珠玉のラブストーリーという感じでした。