くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「3人のアンヌ」「浮草物語」

3人のアンヌ

「3人のアンヌ」
ホン・サンス監督が描く、ちょっと不思議なラブストーリー。一見、オムニバス風のお話ですが、登場人物というか演じる人は同じ。目くるめく繰り返しと散りばめられたアイテムがひとつに絡んで行く展開の妙味がとにかく楽しい一本でした。

テーブルを挟んで女性ウォンジュとその母でしょうか?ウォンジュが書き始める三つの淡いラブストーリーの脚本に沿って物語が始まります。

最初は海外からやってきた著名な映画監督のアンヌ。彼女は、この海辺の町モハンを散策するときに、一人のライフガードの青年と知り合う。英語が通じるのか通じないのか片言の会話に、どこかエキゾチックな味わいを見せる映像が、まるでエリック・ロメールの映画を見ているよう。

服の色に色分けされた映像のこだわり、ライフガードのオレンジのシャツ、黄色いテント、白い灯台、青い海、韓国映画のようでヨーロッパ映画のようなたたずまいが、淡い恋物語を紡いでいく。
やたらキスを迫る映画監督を後目に帰っていく最初のエピソード。最後にライフガードに手紙を渡すが、ビューティフルの単語が読めない。

二人目のアンヌは浮気中の人妻。モハンの町で待ち合わせた相手は著名な男性の映画監督。道で落とした携帯電話を拾ったのがまたまたライフガードで、めくるめく繰り返される恋のヴァカンスが始まる。

最後のアンヌは離婚したばかりの女性。例によってライフガードの若者と知り合い、しこたま焼酎を飲んで、最後はテントの中で目覚めるが、果たして愛を交わしたのか、ただ、いびきをかいて眠るライフガードのショットは、結局成就しなかった淡いラブストーリーで終わった感じである。

探しにきたアンヌの友人に、知らないと答えたライフガード。アンヌは一人道を手前から向こうに去ってエンディング。

ヨーロッパの監督が撮った映画だと紹介されても違和感のない、独特の映像感性をもったホン・サンスの映画の魅力の一端を見事に見せてくれた作品でした。

三人のアンヌを演じたイザベル・ユペールの存在感がこの映画の魅力を背負っている気がします。


「浮草物語」
カラー版のセルフリメイク作品「浮草」は昨年見て、宮川一夫のカメラにうっとりしたものですが、このサイレント版は、さすがに小津安二郎のサイレンと作品の終盤の一本だけあって、完成された映像で、素晴らしい傑作でした。ストーリーを知っていたとはいえ、ラストシーンはじんわり涙が浮かんできました。

物語は芝居小屋を数ショット写した後、そこへ着八一座がやってくるところから始まります。フィックスでローアングルのカメラで捉えた無人のショットはもちろんですが、画面の人物と調度品の配置の美しさ、雨や雪などの自然描写の挿入シーンのうまさ、台詞と台詞の切り返しのテンポの見事さ、どれをとっても、小津芸術の完成品であることがくっきりと伝わってくる。

この街には喜八の愛人のかあやんが営む小料理屋があり、そこには喜八の子供である信吉がいる。もちろん信吉は喜八が父だと知らないのですが、信吉の成長を見るのが楽しみな喜八は頻繁にこの小料理屋へ出入りし始める。当然、女房のたかが不審に思い、信吉が喜八の子供だと知って、妹分のときに誘惑させるが、いつの間にか二人は本当に恋仲になる。

この一座にいる子役の俳優の場面もとってもコミカルで、常に招き猫の置物を持ち歩き、そこに自分のお金をためているというエピソードもまたほほえましいほどに物語に色を添えてきます。

かあやんのところにいる喜八をおってきたたかと喜八が、玄関の出先で向かい合うシーン。ローアングルで捉える二人の降るショットの間に配置された荷車の車輪のカット。信吉の自転車を手前において、無効に説きと二人で座る信吉のショット、などなど奥の深いアングルも多々見られ、映像の完成度の高さを見せ付けられる。

サイレント映画ですから、字幕がはいります。その挿入されるテンポのよさまで絡んでくるのだから、これはもう名作と呼ぶ一本ですね。

舞台が不入りになり、衣装や小道具を全て売って、一座は解散。喜八はかあやんのところへやってくる。そして、あやまるときをかあやんに預けて、引き止めるかあやんを後に旅立って行く喜八。

ラストシーン、駅で喜八がたかと出会い、タバコをすって、切符を買って二人で上諏訪へ旅立つラストシーンはリメイクでもしっかり描かれていますが、まったく名シーンです。
素晴らしいの一言に尽きるサイレント映画の傑作を目にした気分です。