くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「袋小路」

袋小路

かなたに延びるハイウェイ。周りには何もない。そこへ一台の車が走ってくる。アニメチックなクレジットとメインタイトルが軽い音楽と共に流れる。この映画のオープニングである。このどこかシュールなテンポの導入部で、この作品の全体を見事に描写するからうまいといわざるを得ません。

車は途中で止まり、中から右手を負傷した大柄のいかついリチャードが出てきて車を押す。中にはめがねをかけて狡猾な風貌のアルバートが乗っているが、程なく障害物にぶつかり車が動かなくなる。足元に蟹、かなたに干潟、不穏なインサートカットがものすごい効果である。

アルバートが背中のマシンガンを引き抜くが、腹には銃弾を浴びているようで動けない。リチャードは、助けを呼ぶためにかなたに見える城のような建物へ。途中、抱き合う二人の若者、後にわかるが、女は城の主ジョージの妻テレサと魚を取るために舟を出す若者。二人は不倫をしているらしい。おりしも、遊びに来ていた友人が帰るところで、うまく忍び込んだリチャードは食べ残しをほうばって鳥小屋の中で眠る。しかし、先ほどの道は潮が満ちてきて閉ざされ始める。

夕方になり目覚めたリチャードはジョージとテレサを脅して車を城まで引き寄せる。勇敢そうな言葉で求愛したジョージは、リチャードには頭が上がらず言いなり。そんなジョージが歯がゆいテレサはことあるごとにジョージをからかう。リチャードはボスに電話をし助けを求める。そして助けが来るまでリチャードとテレサの家出居候。負傷したアルバートはまもなく死んでしまう。

どこかギクシャクしたリチャードとテレサの夫婦のところへやってくるならず者リチャードの物語がどんどん進んで行くが、最初に車をかくすために鶏小屋を壊して、鶏が庭中に散らばっている混沌とした動きのある画面作りは素晴らしい。リチャードがやってきたときに電線にひっかかる凧のショットなど、さりげない挿入カットが実に効果的である。

満ち潮で閉ざされた古城を舞台に、リチャードの態度がふがいないテレサの言動と、手が不自由ながら、必死でこわもてで二人を脅すリチャードの横暴さ、テレサに笑われながらも彼女を捨てられずひたすら仕えるジョージの存在、この三人の立ち居地が実に不可思議で面白い構図でストーリーが展開して行く。奥行きのあるカットもそうであるが、古い由緒ある建物の調度品がさりげなく飾られている室内のカットもまた見事でもある。

やがて、夜が明け、リチャードの友人たちがやってくると、今度はジョージを執事のようにこき使うリチャードとテレサ。そのコミカルな立場の入れ替わりもまたたのしい。
やがて、無遠慮な友人たちを追い返したリチャード。ジョージはボスに再度電話するが、ボスは助けに来る気などないことがわかる。
テレサジョージに襲われたという言葉を真に受けて、テレサジョージの上着から盗んだ銃でリチャードがジョージを撃ち殺してしまう。

呆然と狂ったようになるジョージ。テレサは忘れ物を取りに戻ったニコラスに、つれて逃げてといって走り出す。それを追いかけるジョージ。そして呆然と岩の上に座り込んでエンディング。

コメディでも、不条理ドラマでもない、不可思議でシュールな人間関係の交錯するドラマで、手前に人物を配置したりする奥行きのある画面作りのこだわりはいうまでもないが、古城にある由緒ありそうな調度品やステンドグラスがいとも簡単に壊れてしまうなどの風刺、隔絶された空間で繰り広げられるブラックな物語も効いて、人間と人間が感情の入れ替わりで交錯して行くストーリー展開が見事に組み立てられた構成が素晴らしい一本。

最初の導入部からラストシーンまで、なぜか目を離せない展開を堪能する傑作でした。