くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「上京ものがたり」

上京ものがたり

前作「女の子ものがたり」の前日壇となる西原理恵子の物語である。

とにかく、素直な演出で描いていく森岡利行監督の映像が実に心地よくていいです。前作もそうでしたが、特にあざといテクニックや映像を駆使することなく、一人の女性の成長する姿をまっすぐな視点でとらえていく。その真摯な姿勢がとっても気持ちよくて、でてくる登場人物それぞれも決して灰汁を出さないところがいい。

海岸の突堤で自分が描いたのか、鮮やかなイラスト調の絵の先端にセーラー服を着た主人公菜都美がたっている。そして、この物語の主人公菜都美の高校時代から映画が始まる。

といっても、すぐに東京にでていってからのストーリーに入っていき、途中、何度か高校時代の彼女が挿入されるのであるが、基本的に東京での苦労話が中心になる。

美大に通うものの、お金が大変で、友達からホステスの仕事を紹介され働き始める。そこで知り合った青年良介と同棲を始めるが、なんともプー太郎で仕事をしない。

日々必死で働く菜都美。一方、拾ってきた猫をを大事にしながら、菜都美のグチの聞き役になる良介。彼にもカメラマンになる夢があるようである。彼の姿を、なぜか憎めないプー太郎に描いて、いけ好かない部分を強調しない描写が実にいいのであるが、演じた池松壮亮が微妙なムードをうまく演じている。

ホステスの仕事で出会った吹雪というちょっと年輩のホステスとその娘と仲良くなり、一方で次第に仕事が手に着いてくる菜都美。やがて、吹雪が病気で亡くなり、良介も家を出ていく。

カットの仕事から次第に連載の仕事へ、そして、本を出すまでになる菜都美。書店でのサイン会には、かつての友達が次々とやってくる。そして、ショーウィンドウの外には彼女にカメラを向ける良介の姿が。このシーンがとっても良い。

思わず良介を追いかける菜都美だが、見失う。それぞれがそれぞれ未来に向かって進んでいく。誰かが自分のマンガで笑ってくれればそれで良い。そんな菜都美のつぶやく声が流れて映画は終わる。

決してハイレベルな作品ではないかもしれないが、淡々と語る森岡監督の姿がスクリーンの隅から見えてくるような気がする。北乃きいの素朴な姿もとってもいい。だから好きな映画です。