くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「白痴」(手塚眞)「不連続殺人事件」

白痴

「白痴」(手塚眞監督)
近未来の世界大戦の末期が舞台という設定で描かれる、物語である。

いきなり巨大な爆撃機がこちらに飛んできて、焼け野原の世界が写され、モノクロのドキュメントタッチの映像の中に、明らかに第二次大戦の廃墟らしい映像。そこに黄色い服を着た女たちをカメラ撮影する男。そしてタイトル。
まさに手塚真監督の映像感性の世界から始まる。

長屋に住まいに生活する主人公の伊沢が、床の間につってある首吊りのロープに首を通し。そこにかぶる近隣の住民たちの紹介。
妾の女、女郎、仕立屋、隣に住む男の元にいる白痴の女サヨ。異様な世界であるが、この長屋のショットが実にカメラアングルが秀逸で見事。ここから外の外界の世界が焼け野原という世界観もまたシュールな世界である。

伊沢はテレビ局のようなところにつとめ、そこではカリスマ的なスター銀河という女がまるで皇帝のように君臨し、スタッフたちを顎で使っている。この異様な世界の設定もまた妙である。

繰り広げられる物語はあってないようなシュールなもので、ある日、伊沢の部屋の押入にサヨがやってきて、物語は一応前に展開。

クライマックスは大空襲のシーン。爆破される町並み、落とされる爆弾、降り注ぐ焼夷弾。襲いくる爆撃機の群。炎の中を伊沢とサヨが逃げる。火山のそばで寄り添っていると彼らは溶けて、火山の中からお釈迦さんのような巨大な人間が現れ、見下ろすといつの間にか二人は海岸で寄り添っている。

カメラが引いていくと、伊沢の部屋。真上からとらえるカット、なにやら映画の脚本を書いていて、明るい日差しに窓を開けるカットでエンディング。

終盤にグロテスクな映像が展開するところはまさにビジュアルアーティスト手塚眞の世界であるが、全体にせりふが聞きづらいし、画面が暗い。クライマックスのまるでスペクタクル映画のような展開までがかなりしんどい不可思議な映画である。

結局、具体的なメッセージをつかみ得なかったけれども、映像表現の一つとしてストレートに鑑賞すればそれなりの映画だったのかもしれない。


「不連続殺人事件」
ATG映画という制約が結果的に複雑な推理ドラマとして完成させることになった、という感じのなかなかのカルト的な傑作だった。
カメラアングルが素晴らしく、豪邸に集まった29人の入り乱れる姿が横長の画面に所狭しと繰り広げられる。時に、獣のごとき淫乱なむき出しの欲望が渦巻き、その中で次々と、起こるべくして起こって行くような殺人事件が続く。警察が常駐した状態になるにもかかわらず、当たり前のように次の殺人がいとも簡単に起こってしまう。

最初の招かれた矢代と友人の巨勢教授。クライマックスで最後の謎解きをするくだりは実に爽快であるが、それまでの展開はどろどろするほどに入り乱れて、誰が誰かわからないほどに荒っぽく展開して行く。しかし、その荒っぽさが、全ての謎を覆い隠すためのカモフラージュであったというラストの説明がなんとも小気味良いのだから、ミステリードラマとしてもなかなかのできばえだった。とにかく、真犯人は最後の最後までわからないのだからそれだけで十分に正解である。

物語は昭和二十二年のモノクロ映像から始まる。土居画伯とその妻のところにあやかのところに一人の男望月一馬が現れ、綾香を金で売ってくれという。金が必要だった土居はいとも簡単に妻を金で売り渡す。そして、タイトルの後、画面はカラーに変わる。

矢代夫妻のところに、ある日、かつて疎開していた望月の家からパーティの招待状が来る。いってみれば、なんと疎開していた人々29人が招待されていたのである。そこには土井画伯も招待されていて、いかにもぶきみな予感をさせる。ボンネットバスから降り立つ人々のショットはかなりあざといのであるが、その後、広間に一同に会する場面からのカメラのセットが絶妙で、大勢が、たったり、座ったり、男と女が絡んだりと、人人で埋め尽くされる構図を徹底して行く。

最初の殺人が行われてから、警察が介入。ほとんどが、明確な推理を伴わないままにどんどんと先に進む展開はかなり荒っぽいし、個性だけで登場する内田裕也の演技があまりにも素人くさいが、それでも、人数が多すぎて、関係が混乱するのも無視して進んで行くドラマは、ある忌み気楽に楽しめる。矢代夫婦が傍観者の如き視点で殺人事件を捉えて行く展開になっているのだが、あまり表立っても出てこない。探偵としてやってくる巨勢博士の存在感もラストで種明かしをするまであまり表立ってこない。にもかかわらず、画面は人、人、人である。

確かに、弱点も多々ある作品かもしれないが、映像表現としてはなかなかのハイレベルだし、絡み合った人物関係を描ききる脚本の見事さも評価できる傑作だったと思います。やはりATG映画は面白いですね。