くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カルメン故郷に帰る」

カルメン故郷に帰る

言うまでもなく、日本初の総天然色映画として有名な一本であるが、30数年ぶりに見直した。来週上映されるモノクロ版と対にしてみたかったためである。

久しぶりにみたとはい、さすがにしっかりとした脚本の構成のうまさには頭が下がる。非常にシンプルな物語で、会社側としてはフジカラーのテスト作品のような映画である。背後の青空に真っ赤なリリー・カルメンの衣装と黄色と縞のマヤ朱美の色彩が実に美しい。というか、三原色をあえて配置した計画的な配色といえなくもない。

物語は、東京でダンサーになったおきんことリリー・カルメンが、浅間山麓北軽井沢の田舎の村に里帰りしてくるという知らせが父の元にくるところから始まる。広大に広がる山麓の景色。牛や馬がのんびりと歩き回る中で、常に画面は広さと点のように配置する人物を何度も描写する。

そこへ、色鮮やかな服装でカルメンとマヤがやってくるのだ。わくわくするファーストシーンである。そして、前半は戸惑う村人たちと、それにこびることなく、自由奔放に振る舞うカルメンたちの姿、対比するように、静かな歌を作曲する田川という先生が登場する。これを芸術というものへの人々の考えに対する木下恵介の皮肉ととらえるのは考えすぎだろうか。

前半ののんびりした展開がとたんに動き始めるのが後半、カルメンたちの舞台で踊るという企画がにわかに起こり、それに対して父親や校長先生が戸惑うあたりからである。そして、一度は大反対するも、このまま踊らせてやろうと涙ぐむ父の姿で、一気に作品に深みがでてくる。

芸術への盲目的な思いこみに酔いしれる村人たちと、目の見えない田川先生の作曲、その真摯な展開が一気に父と娘の愛情のドラマになって人間味を帯びてくるのだ。

そして、クライマックスは舞台でのダンスシーン(もちろんそれらしくカットで描くのみだが)から、二人が再びみんなに見送られながら消えていくエンディングまで、この畳みかけのうまさは職人技である。

結局、ストリッパーであることは村人たちは知らない。観客のみが彼女たちの真の姿を知っている。でも、楽しい。反対していた校長先生が言う「大都会東京で、禁止されるわけでもなく踊ることができるのだから、芸術と言うものかもしれない」と。このせりふが効くのである。

木下恵介の他の名作に比べれば見劣りする出来映えだが、作品としてはかなりハイレベルである。これが名作たる一本。こんなにシンプルなストーリーに詰め込まれた深みのある内容をもっと感じ取ってほしいと思える一本でした。