くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「モーニングセット、牛乳、春」「ジェリー・フィッシュ」

モーニングセット

「モーニングセット、牛乳、春」
とっても不思議な映画なのですが、何とも心に残る、とっても甘酸っぱくなるような青春映画だったのかもしれない。

一人の居酒屋の主人風の男が歩いているシーンから映画が始まる。前に女子高生らしい女の子が歩いていて、その後ろから、二人の小学生が駆け抜けざまにスカートをめくる。その男の子たちに鞄を投げるが、いつものことらしく、見つめるだけの女子高生。振り返って居酒屋風の男と視線を合わせる。

直後、森の中でさっきの女子高生らしい女の子がレイプされているシーンがくるので、てっきり犯人はあの居酒屋風の男なのかと思う。

画面が変わると、一人のサラリーマン風の男佐々木がベッドを起き、眠る妻をおいて、自分で弁当をいれ、駅前で配られているティッシュを受け取り、途中でモーニングを食べ、牛乳を買って会社へ行く。

実に平凡な、しかも淡々とした映像で幕を開けるこの作品。最初は、佐々木の親友岡部が死んだという知らせを受けて、お悔やみにいくあたりまで、どういう内容か把握できないほどにふつうの展開を見せる。特にカメラワークもふつうで、やたら食べるシーンが目立つくらいである。

岡部の涅槃で髭を剃る佐々木、かぶるように一人の少女(冒頭の女子高生らしい)の涅槃をのぞく少年二人、どうやら佐々木と岡部らしい。ここで?となってくる。

ティッシュを配る女の子が落としたティッシュを拾ってあげる佐々木のシーン、これが後に体調不良で駅前で倒れた佐々木を介抱するこの女の子、春(ラストでこの名前がわかるのですが)、とのきっかけになる脚本の組立が実にうまい。

親友岡部のお悔やみにいき、やたら若い妻に目を引かれる佐々木。

体調を崩し、助けてもらった春と食事をするが、援助交際を戒める佐々木の無骨さもまた不思議に違和感があるようなないようなぎこちなさ。

ある夜、岡部からの留守電を聞き忘れていたと妻に言われ、再生してみると、岡部が心臓麻痺で死ぬ前日の朝。「サチちゃんが好きだったよな、サチちゃん自殺だったらしい。あの日俺はみてしまったんだ。また飲みに行こう」というメッセージが。そして画面は岡部と佐々木の少年時代。

実は冒頭でスカートめくりをした二人の少年は、岡部と佐々木で、岡部はサチが森でレイプされるところを目撃してしまった。二人にとって初恋だった年上の女性への切なくももの悲しい思い出がよみがえる。思わず町に飛び出す佐々木。幼い頃に戻るシーンから二人がサチのよーいどんで走り出すショットなどがかぶる。

懐かしさに、岡部の妻の居酒屋に行くと、彼女は岡部が亡くなってから落ち込んで酔いつぶれていたりする。彼女を助け、自宅に連れ帰る佐々木。そこで、妻が上半身を脱ぐ。脇の毛をそろうとする佐々木。幼い頃みたサチの脇の毛が妙なエロティックさで、幼い佐々木に記憶として残っているようである。

あれからティッシュを配っているのを見かけなかった春を偶然、海岸で見つけた佐々木は何となく彼女をホテルへ。一度はレイプまがいのことをするが、結局、春に泣かれ一晩眠る。翌朝、川岸に一人たたずむ春のそばに行くと、春はこれから自立して、ふつうの幸せを手にすると言って去る。自分の名前は春だという。まるで彼女と出会ったことで佐々木がもう一度季節の最初に戻ったかのようでもある。

佐々木は少年時代、岡部やサチと水に石投げをしたころにもどり、水面に石を投げる。まるで、今まで忘れていた情熱を取り戻したかのように。

淡々としたリズムで、ふつうの物語が描かれていくが、エピソードの組立が巧みで決して飽きない。丁寧な脚本と練られたストーリー展開が実におもしろい一本だった。


「ジェリー・フィッシュ(Rー18文学賞vol.2)」
体よく公開されているが、悪く言えば、上質のAVと呼べなくもない。とってもきれいなシーンが展開するものの、基本的には、危ういほどに揺れ動く女子高生の性への興味とSEXについての客観的な視点を描いているのである。

クラゲが売り物なのか、クラゲの水槽があちこちにある水族館で映画がはじまる。ひとつの水槽に魅入っている一人の女子高生夕紀。突然隣にショートカットの美少女が現れ、手をふれてくる。そして「冷たいね」と語りかけるのである。

この少女の名前は叶子。そして、彼女は突然夕紀にキスをする。不思議な感覚に浸る夕紀を後に、叶子は友達と離れていく。一人残った夕紀が水族館をでるところでカメラが引かれてタイトル。「ジェリー・フィッシュ」とはクラゲの名前である。

バス停のベンチで夕紀と叶子はたわいない会話をするようになる。クラスでも浮いている夕紀に対し叶子はどちらかというと人気者である。しかし叶子は夕紀に執拗に接してきて、どこか危険なにおいが画面全体から漂ってくる。そして、夕紀も次第に叶子になびいていく。

バス停でキスをしたり、ふざけたりと、何気ない思春期の少女同士の関係だが、ある日、叶子に彼氏ができる。叶子は彼氏とSEXするが、一方的なSEXに妙な感じを受けている。

一方の夕紀もバイト先の店長を誘ったことがきっかけで、その店でバイトをすることになった。それも、ただSEXへの興味だけで店長と関係したというのだから、なんとも不可思議な世代である。

店長は真摯に彼女に、ちゃんと勉強して、バイトもやめて、ちゃんとしないといけないと言うが、納得した夕紀は最後にもう一度と、全裸になって店長に迫る。しかし、一度は抱いたものの最後までいけない店長は「いずれこの気持ちが分かるよ」と諭す。

やがて、叶子の過去をたまたま聞いた夕紀はそれを誤って叶子の彼氏にしゃべってしまい、それがきっかけで叶子たちは別れる。そして、やっぱり夕紀と一緒がいいと、全裸になって抱き合うのだが、叶子の反応に夕紀は静かに身を引く。

そして時がたち、夕紀は大人になって一人の女性とつきあっている風である。雨が降っている。傘を買いに行った今の交際相手を待っていると、おなかが大きくて、夫らしい人物とでてくる叶子を見つける。思わず隠れ、後ろ姿を見つめる夕紀。やがて、それぞれのカップルが雨の中に消えていってエンディング。

危うすぎる思春期の少女たちの、揺れ動く危険な心の揺らめきを、女同士の微妙な関係とSEXを交えて描いた作品で、カメラは長回しでゆらゆらと左右にとらえるシーンなど、演出にもこだわっている。

惜しげもなく裸になる二人の少女の新鮮な演技が実にまぶしい一本で、公務員の父を持つ夕紀と、母と二人暮らしで、部屋の中も散らばったままの叶子の対照的な存在感もなぜかリアルな色合いを見せる。

ちょっと、見逃すには惜しい一本だった気がしました。