くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「男子高校生の日常」「わたしはロランス」

男子高校生の日常

男子高校生の日常
ベストセラーコミックの実写版であるが、実写になったことのメリットを最大限に生かした、とっても楽しい作品に仕上がっていました。

舞台は山の中の男子校、女子と接することがほとんどない主要人物ダタクニ、ヨシタケ、ヒデノリの三人を中心に、ありそうであり得ない男子高校生の日常を切り取ったような物語が展開する。

女子に免疫のない男子高校生を極端なステロタイプ化して描く物語は、もちろん、原作の味があるとはいえ、実写ならではのせりふの間や映像のフェイクで徹底的に苦笑いの連続で機関銃のごとく展開する。

とある男子校で、近所の女子校との合同文化祭が企画され、その当日をクライマックスに、男子生徒、女子生徒の、それぞれのツンデレぶりが、コミカルにスクリーンを埋め尽くす。

考えてみれば、今時、ここまで異性に免疫のない男子高校生もいないだろうと思えるが、そこをあえて、甘酸っぱいような思春期の感情を極端に描くことで、なんかほほえましいように楽しい。女生徒の方も、妙に大人びて、さめた視線で、子供みたいに騒ぐ男子を嘲笑する描き方も、よくあるよくあると誰もがうなずいてしまう説得力がある。

力を抜いて、お互いにふつうになれば、すぐに恋愛なんて成就するのに。近年のラブストーリーがよくできた恋愛劇であることを、好対象にして語っていく本作品の魅力が、その日常的すぎる日常の切り取られた時間のおもしろさに見えてくる。

文化祭の当日に、チームしゃちほこに喜々とする高校生たちのショットで暗転、エンディングと唐突に終わらせる。でも、この切り取り方がとってもリアリティ。この映画の魅力ですね。楽しかったです。


「わたしはロランス」
とっても豊かな感性で描かれる、個性あふれる映像に彩られたちょっと不思議なラブストーリーの秀作でした。とってもすてきだった。監督は、まだ若干24歳のカナダのグザヴィエ・ドランという人です。

画面がスタンダードというところから、映像へのこだわりが感じられる。風にゆらゆら揺れる絹のようなカーテンをカメラがとらえてゆっくりとバックしていく。一人の女性の後ろ姿を追いかけるカメラは、ゆっくりと振り返ろうとする女性の姿。でも振り返る直前で、画面は変わり10年前になる。

モントリオールにすむ国語の教師ロランスがこの映画の主人公である。恋人のフレッドは映画の仕事をしている。ベッドの上にはモナリザの絵が飾ってある。

この作品、構図の特徴が、シンメトリーな左右対称の画面づくりである。しかも、画面のど真ん中彼方に小さく囲まれた空間で人物をとらえるというカットが何度もでてくる。さらに、突然、人物が見えないような雨を前面に移して背後に二人のショットをとらえたり、突然、ソファに水が降り注いだり、終盤ではロランスとフレッドが歩く空から衣服が雨のように降り注いできたりする。

上記以外にも、様々なシュールなカットがふんだんに挿入され、独特の映像展開がストーリーを牽引していく。

ロランスとフレッドは、相思相愛の仲のよい恋人たちだが、ある日ロランスは女になりたいと言い出すのだ。当然、周囲の視線は冷たくなり、フレッドも迷いを隠せないが、二人の恋人関係が揺るがない。つまり性同一性障害のテーマにしたドラマではなくて、ラブストーリーなのである。

中途半端に女の化粧をしていたロランスだが、ある日思い切ってスカートを身につけて学校の授業にたつ。しばらくの沈黙の後、一人の生徒が「先日の授業でわからないところが・・」と質問し、ハイテンポな曲とともに、一気に本編へなだれ込んでいく。

しかし、まもなく、学校を辞めさせられるロランス、町では好奇心だけの男と喧嘩をしたりする。それでも、ヘアピースをかってやってロランスを応援するフレッドだが、次第に精神的にも追いつめられて、ロランスの元を離れていく。ロランスは両親からも疎まれ、どん底へ落ちていき、電話代のコインさえなくなったとき、ベビー・ローズというこれまたオカマだが、同じような境遇の人々と、ショーをして暮らしている人物に出会い救われる。

やがて、フレッドも男性の恋人ができて、子供ができる。一方のロランスは詩集を出したりして、次第に生きるすべを確立していく。そして、シャーロットという同居人もできるのである。

物語はロランスとフレッドが、出会いと別れを繰り返しながら、揺らぐことのない男と女の真実の愛の物語を語っていくかに見えてくる。映像が美しいというのも、そして音楽のセンスも良くて、随所にテンポの良い曲やクラシックを挿入し、そのリズムに画面を乗せながら次のシーンへつないでいく演出が心地よい。

初めての詩集をフレッドに送って、再会したロランスとフレッド。それぞれの家庭を顧みながらも二人は会うが、それはまた新たな別れとなる。

時がたち、まもなく21世紀。ロランスの母の理解もあり、ロランスの小説も出版が近い。夫と別れたフレッドと再び再会するが、お互いに、言葉を交わすでもなくバーで別れていく。外に木枯らしのような落ち葉が舞い上がる。すべてを乗り越えて到達したロランスの意識。そんな彼を最後まで、いや今も愛し続けている自分がいることを知るフレッド。

画面は映画の撮影所で、若きフレッドが若きロランスと出会うシーンを写し暗転、エンディングになる。

男であること、女であることが、果たして恋を語る上での形なのだろうか?恋人同士であること、愛し合うことのその本質に流れる、動かしがたい感情をあらゆる垣根を取り払って描いたラブストーリーの秀作だったと思います。不思議な感覚でしたが、ものすごく感動して胸が熱くなってしまいました。