くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「デッドマン・ダウン」「アルカナ」「恋の渦」

デッドマン・ダウン

「デッドマン・ダウン」
「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」のニールス・アルデン・オブレブ監督作品なので見に行った。
いやぁ、これはおもしろかった。アメリカ映画のアクションのようなのだが、やはり色合いが違うところがとにかく引き込まれます。

一人の男ビクターのところに電話が入り、ボスの屋敷に行くと、そこの氷漬けのポールという男の死体が。そこへ駆けつけるボスのアルフォンス、出迎えたのは主人公のビクターである。

死体に握らされていた意味不明の言葉と、口に含まされていた写真の切れ端。この犯人に目星をつけて、犯人のアジトに踏み込んだアルフォンス等だが、そこで銃撃戦となり、相手を皆殺しに。そのときにビクターがアルフォンスを助けたために彼に信頼を得る。

そしてタイトル。この作品はいきなりのこのシーンから始まるので、一見、なにがなにかわからない。

続いて、自宅マンションのベランダにいるビクター。彼を見つめる向かいのマンションのベアトリス。彼女は事故で顔を整形したばかりで、実は犯人に復讐しようとビクターを選んだ。実はポールを殺したのはビクターで、たまたまその現場を見たのがベアトリスだったのだ。

こうして、二人は接近。仕方なくビクターはベアトリスの求める犯人を調べ始めるが、ビクターにはある目的が。実は二年前に家族を皆殺しにされ、その犯人がアルフォンスらの一味で、その復讐に、アルフォンスの仲間になっているらしい。

スピーディなカットバックと、交互に繰り返されるビクターとベアトリスの物語が、どんどん物語に深みを生み出していくとともに、クライマックスの緊張感が高まる演出は、さすがに監督の力量を感じる。

アルフォンスの倉庫に、ビクターの家族を殺した実行犯の男たちも呼び集めるために、実行犯のボスの弟を拉致し、その動画を送りつけたが、ベアトリスが、ビクターの命を心配して送付せず、そのため、ラストの舞台はアルフォンスの自宅となる。トラックをつっこんで幕を開ける銃撃戦への展開が、実に巧妙で、ビクターがベアトリスを守るためにベアトリスの標的をあえて殺さなかったり、ビクターの弟分ダーシーの命を守るためにわざと、目的の場所に呼ばなかったりと、ただのアクションで突っ走ることなく、人間ドラマにも視点を向けたストーリー構成も見事。

ラストは、動画を見た実行犯のボスが、アルフォンソと同士討ちをし、ベアトリスとビクターは目的を達して二人して逃避行にでる。その直前、ダーシーの命も助けてハッピーエンド暗転である。

人間ドラマ、さらにアクションシーンへの流れ、細かい伏線の数々が実に込み入って丁寧に描かれている。カメラも、大きく大胆にとらえるショットを使いながら、顔のクローズアップでしっかりとらえるショットも怠らない演出は見応え十分。なかなかのアクション秀作でした。

ストーリーは、次第に計画が現実味を帯び、実行日の娘の命日に向かっていくビクターの行動と、それに絡んでベアトリスのビクターへの想いが募っていく展開となる。脚本が実にしっかりしているので、一瞬でこの物語のキーポイントが明らかになるし、ビクターが元兵役経験があるということで、銃の使い方に習熟している下りなど、微にいり細に入って、書き込まれた脚本が見事。これがプロの仕事である。

良質のアクション映画を見た感じの充実感に浸れる秀作でした。


「アルカナ」
ちょっとは期待したホラー映画だが、何とも陳腐な作品だった。

まず、細かいカットや、つなぎ放題に前後につないだデジタル映像、それに、妙なところでスローモーションと、なぜか、最近の若い監督は、変わった映像処理をすればそれが個性だと思っているようで、全くストーリーがなってない。

脚本も、全く心の通った組立になっていないし、ありきたりな台詞の数々と、構成の適当さがやたら目立つ。しかも、そんな欠点をカバーするかのような演出も、ただ、デジタル編集を遊んだ程度のカットつなぎで、モンタージュがなっていない。

最悪は、演技演出がなされていないこと。ちゃんと演出すれば、プロの俳優なのだからそれなりに演技するだろうに、それができないために、演技も素人にしか見えない。

肉体と分身が混在し始めたことで、それを取り締まる警察の部署の存在。心臓を食べて生きながらえる分身たち。やたら強い分身の親分の少女。物語の骨子は分身の少女まきとそれを捕まえた若い刑事村上のラブストーリーだと思うが、それも、どこまで描いたかわからない組立がとにかく、あやふやな状態のまま。

ラストのあまりにもリアリティのないというか、つじつまが適当な理由づけで敵を倒してめでたしなのである。

ぁあ、時間の無駄だった、と思える映画、こう言うのを作っていたら日本の映画はだめになるなと言う典型的な一本だった。


「恋の渦」
大根仁監督作品。前作の「モテキ」は、私個人的には好みではなかったけれどかなりの評価を得た作品で、その監督作品でもあるから、見ないわけにはいかない。

で、最高におもしろかった。以前「きょうのできごと」という映画がありましたが、ああいうパターンのオムニバス調の物語。

映画は、一人の男のところに友人や弟、それぞれの彼女がより集まって、友達に女の子を紹介するという名目の飲み会の場面から始まる。

二十歳を勇に越えているにも関わらず誰もが定職もなく、怪しい仕事に近いバイトでその日暮らしをしている。それぞれにそれなりの彼女がいて、みんな同棲している。彼女のいない男は同郷の友人と生活していたりする。

この6人が織りなす、嘘と本音が入り交じった物語を、一週間後、二時間後などと暗転を繰り返しながら描いていく。原作が戯曲なので、舞台の幕による転換というイメージであるが、一見、いかにもプータローっぽい若者たちが、言っていることは妙にちゃんとしているあたりが、舞台劇という感じを臭わせます。

紹介するといってつれてこられた女の子が、予想外にブスで、そのことから盛り上がって、実はその日にちゃんと紹介された男のところに泊まってカップルになってしまう。ほかのカップルは、最初は男がそれぞれ強気に彼女に接しているが、じつは彼女が彼氏を操りながら、ラストのどんでん返しに突き進んでいく。

時に、本音かと思えば、実は嘘であったり、純情そのものかと想えば、しっかり、デリヘルのバイトをしていたりと、交錯する男女の本音と嘘の繰り返しがとにかく軽妙で楽しい。

冒頭の、全員集まるシーンは複数のカメラで延々とワンカット撮影に近い演出。その後は、様々な男たちの部屋を順繰りにとらえていく。そこに描かれる若者たちの物語は、決して、この作品の中の出来事にとどまらず、年代を超えたおもしろさが見え隠れするから絶妙である。

締めくくりは、さんざん、純情な女の子と描かれ、最後は妊娠まで告白して、彼氏と涙ぐんだ女性が、実はデリヘルで、最初に集まった友人の一人に呼ばれて行ってみてびっくりとなって暗転エンディング。

まさかまさかの繰り返しで、転換のテンポもリズム感も最高で、二時間あまり、ぜんぜん退屈しない。是非舞台版も見てみたいものである。本当に楽しめる一本でした。