くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「祇園囃子」「虞美人草」

ばしゃ馬さんとビッグマウス

「ばしゃ馬さんトとビッグマウス
大好きな麻生久美子主演のラブコメディということで、かなり期待したし、友人の感想も抜群だったので、わくわく感で見に行ったが、ちょっとまどろこしすぎるストーリー構成と、ちょっと平凡すぎるせりふの連続、そして、背後にちらほら挿入されるおふざけキャラクターの、いまいち滑ったカットにちょっと、残念に思った一本でした。

全体のストーリーのゆるゆるさは、これはこの作品のムードであってかまわないと思うのですが、どうも画面が動き足りない気がします。

物語は、ここ十年、ひたすら脚本家を目指して、ばしゃ馬のごとくシナリオを書いている主人公馬淵。今回提出したシナリオコンクールもまたまた一次落選で、再度シナリオ学校に友人と行くことに。何回出かけたシナリオ学校?、と思いながらもつきあう友人のマツモト。このマツモトのキャラクターが今一つたってこないために、ストーリーのスパイスにならない。

その学校で出会った口ばかり達者で、全くシナリオを書こうとしないビッグマウスこと金髪青年天童。この二人が何気なく知り合い、お互いに叱責しながら、合コンまがいのグループでわいのわいのと、青春ラブストーリーらしきものが展開していく。
監督は吉田恵輔

物語は、特に劇的な展開を見せるわけではないが、淡々としたストーリーの中に、どこか切ない、夢を求め続けるもかなわない女の寂しさと、口ばっかりで、それが逆に悲しくなるような若者の、揺れる心の葛藤を描いていく。確かに凡作ではないが、エピソードの組立にアンバランスさがあり、非常に長く感じてしまうのである。

馬淵と天童の二人の会話を、延々とフィックスの長回しでとるカットなど、個性的な映像演出も見せるが、ちょっとテンポが悪いかな。背後に、やたら鼻をかむサラリーマンなどを配置するふざけシーンは、今のはやりだけにしか見えないのも残念。

終盤に、お互いの実人生をシナリオにして、馬淵は最後のチャレンジ、天童もシナリオをもう一度書く。このところの前後がリズミカルでおもしろいが、時すでに遅しの感じで終盤へ。

結局、二人は落選、馬淵は実家へ、天童は次の題材を探す。最後にもう一度天道は馬渕に告白するも、それはないと別れていく馬淵のシーンでエンディング。

独特のムードを作品に漂わせる手腕は認めるところがあるかもしれないが、個人的にはあまり好みにならない一本だった。麻生久美子と安田昌大を入れ替えたらおもしろかったかもしれない。


「祇園囃子」
始めてみたときも、すばらしいと思ったが、こうして見直してみるとさすがにそのすばらしさに引き込まれる魅力がある。

地面すれすれのローアングルで祇園の路地をとらえるショットから映画が始まる。右に和傘がおいている構図は、まさに宮川一夫の名カメラマンの実力か、溝口健二の感性か、思わず息をのむ。

カメラはゆっくりと路地を回るように、通り過ぎる美代春、栄子たちをとらえ、路地の奥に四角に見える隙間の向こうに人物が配置される。格子戸の棧の隙間の影に栄子の顔が隠れるショットの美しいこと。のれんが常に画面の上の一部分を覆って、その陰から見える美代春と栄子のショットのすばらしさ。まさに芸術である。

物語は、母親が死んで、甲斐性のない父親に愛想を尽かした若い娘栄子が美代春のもとにきて舞妓になり、やがて、世間の荒波を身を持って体験していく。

女に対する男の情念、欲望、さらに祇園のしきたり、勢力図などを背景に、流転の人生などが、すばらしい構図の映像の中に描かれていく様はまさに絶品。

客を拒んだことで、一旦はお座敷の仕事をなくすものの、美代春を気に入った客と一晩を過ごすことを承知したことで、再び、座敷に呼ばれることになり、いつもの生活に戻って、美代春と栄子が呼ばれていく。カメラが二人をとらえるショットが実に美しいが、その彼方に祇園祭りの山鉾が宵闇に浮かび上がってエンディング。これこそ、日本美の極致であろうか。全く、名作とはこういうものをいうのだろう。目の保養になった気分です。


虞美人草
ご存じ、夏目漱石原作の物語。
戦前の物語であるので、さすがに、夏目漱石原作とはいえ、時代背景が垣間見られるが、カメラの中に配置された日本家屋の構図はやはり溝口健二らしさが見られる。

娘小夜子への想いが書かれた落書きを見つめる井上の姿から映画が始まる。そして、娘小夜子が恋する男性で、井上に恩義がある小野が家庭教師をしている先の裕福な家の娘藤尾との結婚に心が揺らぎ、一方で小夜子の想いもあって、揺れ動くさまを描いて行く。

小野の親友や藤尾の兄などが絡み、小野を頼って東京へきた井上先生と娘小夜子との関係を描いて行く展開であるが、さすがにしっかりとした演出がされていることは否めない。画面もしっかり構図が取られていて、名作とまでは行かないまでも、それなりのレベルの作品であると思います。