くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「THE ICEMAN 氷の処刑人」「ペコロスの母に会いに行く」

THE ICEMAN 氷の処刑人

「THE ICEMAN 氷の処刑人」
主人公ククリンスキーのアップから映画が始まる。物語は1964年にさかのぼる。ちょっと切れると冷酷にも殺人を犯すシリアルキラーの性格を持つククリンスキー、彼の異常なほどの殺人暦を細かいカットで挿入して行く導入部は実に見事。一方で愛する妻デボラと娘二人に恵まれた普通の父、夫で、平凡な家庭を営んでいる。

二十年間で100人あまりを殺戮した実在の殺し屋ククリンスキーのドラマがこの作品である。監督はアリエル・ヴロメンという人である。

ククリンスキーのしたたかな殺しの才能に目をつけた裏社会のボスロイは、彼を自分の右腕として、次々と殺人を依頼する。家では為替ディーラーと偽り、普通の生活をする姿を描いて行くが、表面上の描写はわかるのだが、特に後半部分からのフリーの殺し屋フリージーと組んでからの殺人シーンの演出に切れがなくなってくる。家庭生活のリズムとほとんど変わらないテンポになってくるのである。妻デボラが夫に不審を見せ始めそして、家庭のシーンと殺戮のシーンの緊張感が同じに融合し始めると、いわゆる、実話に基づくサスペンス劇として普通になってくるのがちょっと残念。

とはいっても、細かい編集を多用し、緊張感を常に保ちながら、次第にどこか崩れて行く主人公の姿を描いて行く展開はなかなかのものである。

ロイに娘をひき逃げされ、家族に危険が及んできたと判断したククリンスキーが、ロイをも亡き者にしようと、シアンを手に入れて、準備をし、娘のリハビリに出かける前に、猫で試そうとするが、なぜかシアンが効かない。おかしいと思っているところへ警察がやってきて、逮捕、ラストシーンへ続く。

非常に、丁寧な演出で、しっかりと描かれた佳作というイメージの作品であるが、もうちょっと、オリジナリティを見せても面白かったのではないかと思う。


ペコロスの母に会いに行く
喜劇映画の巨匠森崎東監督久々の新作。長崎在住の漫画家岡野雄一原作の漫画を元に、老いて行く母を見つめる息子の、笑いとペーソスあふれる心温まる物語です。

映画は、原作であるエッセイ漫画がコミカルにこれまでのいきさつを語って行く映像から始まります。
そして、現在進行形の物語と、母みつえが記憶のかなたに思い出す、古き日本の姿、戦争、兄弟、友人などのドラマが細かいカットで振り返りながら描かれていきます。なんといっても、浜田毅のカメラがとっても美しくて、クライマックスの長崎の祭りの夜の背景の美しいこと、赤や黄色に彩られたちょうちんの前で繰り広げられる、最後の想い出は、絵になるほどに素晴らしい。

ゆういちとひとり息子のまさき、そして、痴呆が始まったみつえの三人暮らしの家族のお話として本編が始まります。毎日の生活の中で、どこかちぐはぐな行動が目立ってくるみつえの姿を見たゆういちは、施設に入れることを決意する。初めてみつえを施設に残して、まさきと二人で車で去るゆういちが、何度もバックミラーで母の姿を見るシーンは泣けてきました。

みつえは、古の自分の歩んできた人生を、まるで走馬灯のように思い出し、そこにかぶるゆういちの幼い日々、死んだ夫の姿などが、人間が人間として心のつながりがあった古き時代を思い出させてくれるようなのです。かつての日本はこうだったという説明ではなく、純粋に心のつながりが、毎日を作っていたということが、現在の物語の中にも重なってくると、なんともいえない暖かい心になってくる自分がいました。

過去のフラッシュバックの交錯した挿入が、若干、目指しているほどの力強さを感じないために、全体が平凡に見えなくもないのがちょっと残念ですが、ハートフルな感覚に浸れる一本だったように思えます。