くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブランカニエベス」「おじいちゃんの里帰り」

ブランカニエベス

ブランカニエベス
「白雪姫」の物語をモチーフに、有名な闘牛氏の父親とその娘の物語をファンタジックに、そして、スタンダードモノクロ映像と、せりふがすべてサイレントという、映像芸術の手法で描いた、個性的な作品。

ストーリーの組立がややしつこいように思えるために、100分あまりの作品ながらちょっと長く感じる。しかし、一つ一つの画面の美しさ、モノクロの濃淡を祭壇源に利用したシルエットの美しさを前面に出す映像が、実にすばらしい。

映画は真っ赤なカーテンが開いて、これから始まる物語を舞台の上から上映するという、昔懐かしいオープニングで始まる。舞台はスペイン、有名な闘牛士アントニオ・ビヤルタが巨大な闘牛場で、今にも、その卓越した技を見せようとしているシーンから始まる。

狡猾なカメラマンが、隠れてフラッシュをたいたために、的を誤ったビヤルタは、牛の餌食となり重傷を負う。一方、その妻カルメンは、そのショックで、一人娘を生んだものの、死んでしまう。

瀕死の重傷ながら命を取り留めたビヤルタ、しかし、その財産をねらって、エルカンナという看護婦が、まんまとビヨルタの後妻になる。そして、娘カルメンシータをまるで召使いのようにこき使う。

音楽のテンポに乗せて、時にめまぐるしいほどのカットつなぎや、流れるような編集を試み、鶏を擬人化したり、リンゴに文字を浮かび上がらせたり、デジタル処理の限りを使う一方で、懐かしい映画のシーンを思い出すような風景の構図を見せてみたり、何気ない、展開も、ノスタルジック満載で本当に美しい。

やがて、カルメンシータは、エルカンナに殺害されそうになるが、森で小人の闘牛士とという旅芸人に助けられ、一緒に旅を始める。しかし、殺されそうになったときに記憶を失っているカルメンシータ。やがて美しい娘になったが、なぜか、闘牛の技が見事で、次第に白雪姫という名前で有名になっていく。

そして、かつてビヤルタが事故を起こした闘牛場で闘牛をするという展開へ。

スタンダードながら、大きな構図で、点のように人物を配置した画面づくりの美しさと、観客席でカルメンシータの姿を見つめるエルカンナのショットもまた見事。そして、カルメンシータの雄志を見つめる観客のクローズアップも組み合わされ、どこか、懐かしい演出と、今時のハイテンポな演出の絶妙のバランスに酔いしれていく。

見事、演技を終えた白雪姫。しかし、エルカンナの仕掛けた毒リンゴに命を落とす。

見せ物小屋で、白雪姫の目を覚ますべく、10ペンスでキスをさせる余興が行われている。誰も成功しないが、小人の中の一人の好青年が夜に添い寝をしてキスをする。白雪姫のつむった目に涙が流れて暗転エンディング。果たして、生き返ったのか。余韻を残すラストシーンが秀逸。まさに必見の一本である。監督は、パブロ・ベルヘルという人です。


「おじいちゃんの里帰り」
これは、とってもハートフルな傑作だった。期待もしていなかったのですが、どんどん、そのさりげないユーモアと、テンポのよい展開に引き込まれてしまう。しかも、大勢の人物が登場するにも関わらず、それぞれにこだわらなくても、すんなりとストーリーが頭にはいるし、冒頭からラストまでの、さりげない台詞やシーンもすべて後半に生きてくる。これはもう、脚本の出来映えの良さによる。

監督はヤスミン・サムデレリという女性である。

映画は、ドイツにすみ、大家族になっているフセインじいちゃんが、突然、祖国であるトルコに帰ると言い出す。しかも、家族全員で。さらに、すでに家も買ったというのだ。突然の申し出に、右往左往する家族。すでにドイツで生まれた子供もいる中で、戸惑いと、驚きが交錯。すでに、フセインじいちゃんはすっかりドイツ人としてパスポートさえとれるようになっているのだ。

タイトルが、まるで写真アルバムのようにちりばめられて始まるこの映画、とにかく、最初は軽いタッチの普通のコメディかと思えるのだから、なかなかくせ者なのです。

トルコに戻ると言い出した、出だしの合間合間に、一番小さな孫チェンクの学校での、コミカルなエピソードや、フセインじいちゃんが、トルコからドイツ人労働者になってやってくるエピソード、トルコでのおばあちゃんとの結婚のいきさつなどが、実に軽いタッチでリズムよく挿入される。そして、ドイツの首相から、100万人と一人目というフセインじいちゃんの立場に対し、スピーチの依頼がくるのだ。

トルコとドイツの文化や言葉、風習、宗教の違いが、巧妙な話術でユーモアとしてでてくる。もちろん、日本人にそんな違いはわからないのだが、それであっても、ちゃんとそのユーモアが伝わるという描写のうまさも絶品。

飛行機の待ち時間や、寝る前の時間、車の中など、退屈になったチェンクが、一番若いいとこのお姉ちゃんにお話を聞くという展開で、そのお話の中でおじいちゃんの今までの人生をおもしろおかしく語っていく。

やがて、トルコについて、バスを借りて、みんなで買ったという家を目指す。しかし、道半ばで、おじいちゃんが死んでしまうのだ。もちろん、物語はほぼ終盤に近づいている。一見、自分勝手なおじいちゃんだが、ちゃんと孫が、誤って妊娠してしまったのを言い当てたり、実に家族の細やかなことに心配りしている描写など涙がでてくる。

やがて、買ったという自宅にやってくると、なんと入り口の塀だけで、部屋も壁もない。おじいちゃんを埋葬し、そんな青空で、近所の人を交えて食事をし、やがて、ドイツに戻るべく車に乗り込むが、次男が、自分はここに残って、家を立て直すという。そして、ドイツに帰る家族を見送る。

戻った家族は、首相の前でスピーチをするはずのおじいちゃんの代わりに、チェンクが、かつておじいちゃんと一緒に練習していたスピーチを披露してエンディングになる。

全く、ユーモアの中にちりばめられる心温まるドラマは絶品。しかもその語り口がリズミカルでユーモア満点なのだから、もう、これは必見の傑作と言わざるを得なくなる。本当にいい映画でした。