くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サヨンの鐘」「暁の合唱」「信子」「按摩と女」

サヨンの鐘

「サヨンの鐘」
台湾を舞台に、李香蘭を招いて作った、いわゆる第二次大戦中の戦意高揚映画である。

途中のフィルムが現存していないらしく、唐突に始まるところがないわけでもないし、ストーリー自体はたわいのない作品である。

台湾、高砂族の村にすむサヨンという女性を主人公に、その村の若者が、やがて、召集されて、戦地に向かう物語をクライマックスに描く。

サヨンが子供たちと豚をつれて道を歩くシーンを、延々と長回しで正面からとらえるショットや、俯瞰で子供たちの走る姿を撮る横に動くカメラワークが清水宏らしいところが伺えるが、ふつうの映画である。

ラストは、村の先生が召集され、その見送りにでたサヨンは、雨の中、川に流され、どうやら、死んでしまったことでエンディングを迎える。

冒頭は、延々と、村の手作業の仕事の様子をとらえ、字幕と音楽だけで、サイレント映画かと思われるが、突然、サヨンの顔のアップから物語が始まる。1943年であるから、かなりの制約の中で作られた作品であり、今みるにはかなり貴重なフィルムである。


「暁の合唱」
のほほんとした軽妙なストーリー展開が、実に楽しい秀作で、やや、エピソードを詰め込みすぎたきらいはあるものの、なかなか笑えるし、映像も楽しめる作品でした。

映画は、ある職員室で先生たちが、一人の女生徒の作文を読みあうシーンに始まり、オーバーラップして主人公朋子が歩いている。これから学校の試験があるが、途中でやめて、通りがかりの自動車会社へ面接に来る。そして、そこはバス会社で、その車掌に収まる。

バスに乗って繰り返されるハイテンポでしゃれたせりふの応酬が絶品で、花嫁に出くわしたり、妊婦に出くわしたりと軽い展開にどんどん、引き込まれていく。

一方で、教えてくれる浮田とその友人の三郎との淡い恋話も絡んで、物語は終盤へ進んでいく。

妊婦がバスの中で生むときに、一瞬の間で、朋子の前に見えるメダカのショットが斬新だし、花嫁の行列を見上げるようにとらえるカットの美しさ、橋の彼方に進んでいく行列の構図の美しさに目を奪われる一方で、やがて、運転手としての免許も手にして、三郎を乗せて走り去る朋子のカットでエンディング。途中にかつての花嫁のほほえましい夫婦の姿をすれ違いで見せる。

清水宏のうまさが光る一本でした。


「信子」
九州から都会の女学校にでてきた一人の女教師の奮闘を描く、いわゆる学園ドラマである。
清水宏ならではの、横に移動するカメラ撮影は、今回はハイキングシーンに取り入れられ、問題児の生徒がバスで通り過ぎたり、トラックで戻ってきたりという、ストーリー展開に動きを見せる。

そして、もう一つ、清水宏監督の得意とする、呼笛のように、声でこだまして呼びかけるシーンは、女子寮の中で、いなくなった生徒を捜すシーンで、女性とたちが演じる。

高峰三枝子の教師像は、そうみても田舎教師に見えないのだが、そこは演技力でぐいぐいと引っ張ってくる迫力は、さすがに昔の女優の力量を感じさせます。

物語は、よくある展開で、ラストへ流れていきますが、さわやかな一遍で、今なお、この手の物語はそれほど変化はないものだと思ってしまう。


「按摩と女」
近年、リメイクされた、いわゆる清水宏監督の傑作の一本である。という解説の通り、なるほど、これは傑作である。

まるで、落語の名調子のように、せりふの掛け合いと映像のリズムが、ぽんぽんと飛び交ってストーリーが展開していく。さりげない大人の会話のみならず、それに絡んでくる子供の会話にまで、さりげないユーモアが盛り込まれ、絶品のリズムを生み出すのである。これがオリジナルというのだから、まさに清水宏監督の真骨頂である。

映画は二人の盲目の按摩、福さんと徳さんが峠を足早に歩いてくるシーンから始まる。清水宏得意の長回しによりとらえながら、二人は延々と軽快なおしゃべりをする。どうやら、目明きの人を追い抜かすことが趣味らしく、やたら足が速い。ハイキングの男たちに抜かれたことが悔しいとか、通り過ぎた馬車に乗っていた女は東京女だとかいっている。全く、落語の導入部の如しである。

そして、二人は、いつもの宿屋に行き、そこで、東京女に会う。一方で、一緒に乗っていた子供と叔父さんという男とも軽快な会話をこなし、さらに追い抜いていった学生たちに仕返しをし、女学生に翻弄される。全く、見事な話芸の世界のような脚本がすばらしい。

部屋から部屋に横に移動するカメラワーク、軽やかに走り抜ける按摩たちのコミカルな行き交い、映像の妙味と、一種独特の歩幅のリズムが、何ともいえないホッピングをするように進んでいくのである。

東京女がいくところいくところで起こる、客の金の盗難事件。東京女に惚れた徳さんの不安から、クライマックスの勘違い、そして馬車に乗って去っていく東京女を見送る徳さんのアップでエンディング。

これが傑作でなくてなんだろう。久しぶりに唯一無二のオリジナリティにうならせられた一本に出会いました。すばらしい。