くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「旅人は夢を奏でる」「はじまりは5つ星ホテルから」

旅人は夢を奏でる

「旅人は夢を奏でる」
アキ・カウリスマキ監督の娘ミカ・カウリスマキ監督作品で、フィンランドで大ヒットしたという一本。いよいよ、明日で閉館(梅田シネ・リーブルに引継)になる梅田ガーデンシネマに見に行きました。

この映画、とってもすてきなロードムービーの秀作でした。物語が進むにつれて、尻上がりによくなってきて、ストーリーがテンポに乗っていきます。軽いタッチのようで、ラストシーンは心の中にしんみりとしみこんでいくような不思議な感動を呼んでくれます。

映画は、空港に一人の太った老人レオが降り立つところから始まる。ロビーでのおしゃべりな婦人二人との軽いタッチの会話の後、レオはピアノの演奏会場にいる。

冒頭の二人のおばさんとのコミカルな導入部が最後まで行くのかと思いきや、演奏会でピアノを弾いていたピアニストティモが家に帰ると、玄関でレオが飲んだくれて寝込んでいる。実はレオはティモの父親で、その夜、ティモの部屋に上がり込んで、ティモの練習のじゃまをする。

いかにも身勝手な父親と、幼くして別れて、今は成功した息子とのよくある物語かと見始めるのですが、このレオ、ティモを誘って、行くところがあるからと車で走り始める。しかも、当たり前のように車を盗んでのことなのだ。

車の中で、ティモは実は養子で、実母は別にいるという会話から、まず、祖母の入院しているところへ行き、母のところに行き、ついでだと、今は別居しているティモの妻のところへ行く。最初の日に、ティモと妻がうまく行ってなくて別居していることをレオが知るところからの流れである。

そして、その翌日、レオは一人ティモの実母のところへ。不審に思ったティモがレオを追っていく。

実はレオはかつて銀行強盗で、ティモの実母と相棒の男と三人で犯罪を犯し、ティモの実母は捕まり、レオがティモを引き取って育てたことがわかる。今は実母と夫婦であるかつての相棒は、レオに銃を向け、すんでのところでティモに助けられるが、撃たれる。

やがて、ティモが生まれた家にレオは案内し、そこで息を引き取る。最後に世界一の射手になろうとした男の話を語る。終盤が実に見事な一本で、淡々としたロードムービーがティモの妻の家に行ったあたりから、一気に盛り上がり、ラストへなだれ込んでいく。

ピアノの演奏会場。今までとは違う演奏のティモ、それを見つめる妻と子供、そして、実母の姿が客席にある。エンディング。セルジュ・ゲンズブールの歌が流れてエンドタイトル。

実にうまい。ユーモラスに展開し、ストーリーの中に引き込んでいく前半部分から、中盤のホテルでティモとレオが、ナンパした女と音楽でつながり,SEXし、お金をすられて、どうしようもなくなるも、二人で笑い飛ばす下りは絶品。

ティモの生まれた家で、ふるえるレオのために薪をくべようとして、かつて、若き日のレオの姿がのった雑誌を見つけ、破いて燃やすティモのシーンも見事。さすが、ヨーロッパらしいロードムービーの秀作に出会いました。


「はじまりは5つ星ホテルから」
続いて、梅田ガーデンシネマにての鑑賞です。監督はマリア・シーレ・トニャッツィという人です。

この映画、ちょっとした佳作でした。オリジナリティあふれるし、カメラの使い方も実に巧妙で、映像が、物語を語ってくれるという感じです。

映画が始まると、主人公イレーネが、高級ホテルのベッドで目を覚まし、あちこちのほこりなどをチェックしている。五つ星のホテルを回りながら、その程度をチェックしていく仕事の彼女は、ほとんど毎日がホテル暮らしになる。的確なチェックと判断をパソコンに打ち込む姿の軽快さと、一方で、仕事だけで未だ独身の姉?を心配する妹のシルヴィアとの生活、さらには元彼とのまじわりが、うまく絡み合わせて、テンポよくストーリーが進む。

合間に、ホテルで出会う人々とのさりげないエピソードや、シルヴィアの子供たちと戯れる姿、元彼の今のフィアンセとの悩みなどを聞いたりと、仕事人間である一方で、頼りにされるイレーネの姿。そして、時に、ふと孤独感を味わう瞬間なども見逃さない演出が施される。

カメラは、小気味良く切り替えされ、ロング、アップ、ミドルをリズム感よろしく繰り返す。

終盤、ホテルで出会い、友達になりそうな女性と知り合うが、彼女の突然の死で、落ち込み、その前から喧嘩していたシルヴィアも相手にしてくれず、思わず元彼と一夜を過ごすが、反省して、翌朝訪ねると、フィアンセがいて、彼女に必死で謝り、シルヴィアに、彼女のお気に入りのワンピースを送り、再び次のホテルへ向かうイレーネの姿でエンディング。

終盤に、落ち込んだときに、カメラは無味乾燥な姿で見せるビルをとらえたり、映像の使い方が本当に繊細な作品で、さりげなく感動させてくれる一本でした。。