くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「東京難民」

東京難民

「東京難民」
さすがに佐々部清監督は、この手のドラマを描かせると実にうまい。下手をすると、やたら暗くて、のめり込めない主人公の物語になるところを、まるで、映像がストーリーの強弱を表現するように、演出してみせる。

物語は、夜の川縁に、リンチされたらしい若者が担がれてくるシーンに始まる。そしてその男を放置して物語はさかのぼる。

主人公修は、今時どこにでもいる大学生、やたらたばこを吸い、ノリのいい笑顔で登場する彼の描写は、ちょっと、一時代前に見えなくもないなと一瞬引いてしまうのだが、これもまた、佐々部監督の演出だったのか?

下宿に届いた内容証明を無視し、学校へ行けば、授業料未納で除籍されていて、戻ってみれば、下宿もまもなく追い出される。仕方なくネット難民になるところからどんどん、人生をかけ落ちていくのだが、ティッシュ配りのバイト先で、爆弾を作っているという若者に出会ったり、食事をたかっている女に出会ったりとして、ホストの世界へ。

若干、唐突に展開し、描き切れていないところもなきにしもあらずと、今思い起こすと、そう思うのだが、それがかえって、面倒な陰湿さを生まずに、エンターテインメントのように展開したのはある意味、成功だったのかもしれない。悪くいえば、薄い。

さて、そこで、同僚の順矢と親しくなり、修を引き込んだ食事たかりの瑠衣とも親しくなる一方で、客で看護師の茜との恋物語も展開。

そして、金の問題から、ホストクラブの店長でやくざの荒木から追われ、土工の仕事をして逃げ、何とか先が見えたかに思ったところを、また見つかり、と二転三転の人生は、少しずつ落ちていく。

その後リンチされた修は、川縁へ連れていかれるファーストシーンにつながり、そのまま自分を捨てて、ホームレスになる。そして、ソープに身を落とした茜に会いに行き、別れをいう。

やがて、憎んでいた父親を捜す旅にでるためにそこを離れていってエンディング。ここまでの途中で知り合った人たちの姿がカット挿入される。

振り返ってみると、それぞれが自分の落ちていく人生は、自分で選んだ結果に近いと思えなくもない。一見、望まずして落ちていったようだが、その選択する瞬間には、間違いなく自分の意志がはいっている。だから、ラストの自分の境遇も、なぜか、収まって見える。

茜が、かつて、行方をくらました修が茜に会いに来たときに悪態をつき、お金を返してと泣きつくが、ソープであったときに、あのお金はあのときの修にあげたものだと告げる。

覆い被さるような都会の町並みをバックにとらえる人物の構図もすばらしく、何気なく斜めにとらえてみたりする演出の妙味も、人間ドラマを秀逸にしている。世間の評判や、友達の感想は、実に悪いのですが、私は個人的にはかなりの作品だと思うのです。