くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「LIFE!」「フルートベール駅で」

LIFE

「LIFE!」
1947年の「虹を掴む男」の再映画化である。原作はジャームズ・サーバー、監督はベン・スティラーで自ら主演もこなしている。

初めて宣伝をみたときは、ちょっと期待した作品でしたが、時間がたつにつれて、その印象が薄れ、今日みてみると、それほどの作品に仕上がっていない。ただ、おもしろくないわけではないし、近年のデジタル映像、デジタル処理をふんだんに活用した、主人公ウォルター・ミティの空想のシーンは秀逸。しかし、物語全体にリズムがなく、冒頭のLIFE誌休刊から会社の買収、それに絡んでのショーン・オコンネルのネガ25番の紛失、捜索へと続くおもしろさが、盛り上がってこない。

脚本が悪いのか、映像展開の演出がまずいのか。

映画は、主人公ウォルターが、ネットの出会い系サイトで、会社の同僚で密かに思いを寄せるシェリルを見つけ、アクセスしようとして、エラーになるシーンから始まる。そして、会社に行けば、勤め先は買収されて、担当している雑誌LIFEは最後の発刊のための準備に入っている。その表紙に選んだショーンの写真の25番のネガが見あたらず、それを探す物語へ。

空想好きのウォルターの妄想シーンが何度も登場し、それが、いよいよ現実の話になってくるが、その展開がうまくない。アイルランドでヘリコプターに飛び乗って、現実の冒険へ飛び出す下りが、甘いのだろうか。

さらに、25番の写真の謎が、今一つサスペンスフルにストーリーを牽引しないし、いかんせん、様々なエピソードに迫力がないために、ストーリーが立ってこない。

そして、たどり着くべくアイスランドでショーンに出会い、25番の謎をあかされるが、すでに、写真が仕込まれていたショーンからの財布は捨てた後で、どうしようもなく。しかし、帰ってみると、母親がその財布を保管していて、それをLIFEに届ける。

あこがれのシェリルと最後のLIFE誌を街頭で見つけると、なんと25番に写っていたのはウォルターの姿だった。

もう少し、脚本を整理し、ストーリーにメリハリをつけるか、デジタル処理した、風景に移り出す文字や、現実世界が妄想世界になるポップな展開におもしろい演出をすべきだった気がします。

不思議な題材の一品なのに、ちょっともったいない。オリジナル版の映画を見てみたい気がします。でも久しぶりにシャーリー・マクレーンを見ました。


「フルートベール駅で」
画面全体から優しさがあふれてくる映画で、実話を元にしているのですが、その繊細すぎる感覚の演出に、自然と胸に感動が呼び起こされていきます。

監督はライアン・クーグラー。2009年元旦にフルートベール駅で起こった警官による発砲殺人事件を丁寧な映像と、ドキュメンタリー的なメッセージを通して描いていきます。

物語は、実際に、その事件を乗客が映像に撮影した画面から始まります。物語は2009年元旦。

そして、2008年大晦日、午前0時にさかのぼる。主人公オスカーは、かつて大麻の売人をしていたとはいえ、愛する娘タチアナや妻、母、祖母への思いから足を洗い、何とかふつうの生活をしようと思っている。ベッドで妻にキスをするが、タチアナの声で、娘をベッドに寝かせる。この日は母の誕生日で、そのカードなどを探したり、電話したりする姿が、実に彼のふつうの市民ぶりを映し出すのである。

妻を仕事に送り出し、娘を保育所に届け、仕事を探すべく、スーパーに立ち寄るが、遅刻は許せないと首になった。買い物客に魚の天ぷらの作り方を祖母に聞いてやったり、さりげない優しさがにじみ出てくるオスカーは、当然、慕われている。

新年のお祭りをするために、タチアナを妻の姉に預け、妻を連れ、仲間たちとでっける。母のアドバイスで、電車で行きなさいといわれ素直にしたがうオスカー。タチアナを溺愛し、保育所へ迎えに行っても、一緒にはしゃぐオスカー。どのシーンも彼の優しさがあふれているのが良い。

カウントダウンが終わり、帰り道に乗った地下鉄の中で、かつての刑務所でいがみあった白人に会い、その白人に殴られる。無抵抗だったものに、乱闘と見なされ警官がやってくる。そして、駅のホームで、ほかの黒人と警官がもみ合ううちにオスカーは一人の警官に背中から撃たれる。

病院へ運ばれるも、助かることはなかった。

夜の町のネオンがまるで果実の実のように光るカメラも美しい。オスカーの笑顔が何度もクローズアップされ、彼の人柄を何度も映し出す。もちろん、かつて大麻の売人だったことはよくないが、なぜ彼が撃たれなければならなかったのかという、どうしようもない思いが、ラストシーンに一気に放出してくるのである。

本当に、まじめで、いい映画である。とにかく、オスカーへの優しさが伝わってくる映像が秀逸な一本でした。