くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サイドカーに犬」

サイドカーに犬

日常の中の非日常の物語、とってもすてきな一本に出会いました。主演は竹内結子、特に好きな人ではありませんが、監督が根岸吉太郎キネ旬の六位になった作品です。

30歳を過ぎて、未だ独身のキャリアウーマン薫が、マンションの一室をお客さんに案内しているシーンから映画が始まる。しかし、客の希望にそぐわず、その後、会社にはクレームが来て、嫌気がさした薫は、有給休暇を取り、行きつけの釣り堀へ。そこで一人の少女と話しているうちに、自分の10歳の頃、母親が家でした日の前日へ移り、本編へ。

コミカルな曲を場面の転換で用い、時に手持ちカメラで人物を追いかけながらのリズム良い映像がとっても楽しい。10歳の時の薫を演じた女の子の目の動きが抜群に魅力的で、その視線に、一人の少女の心の動きが見事に映し出されていきます。

母親が出ていった翌日、一人の女性が薫の家にやってくる。ヨーコと名乗る、おしゃれな自転車に乗る彼女は、どうやら父親の愛人のようだが、じめっとしたシーンは一切ない。自由奔放に薫と接する竹内結子扮するヨーコが登場して、映画がどんどん走り出してくる。

薫は、何事も口うるさい母親より、この天真爛漫なヨーコにあこがれ、曳かれていく。止められていたコーラを飲み、自転車に乗れるようになり、キャッチボールをする。あこがれのサイドカーに乗せてもらう薫。

しかし、ふとしたことでヨーコと薫の父がけんか、なにげなく失恋したと感じる薫の表情が微妙に切ない。

二人は海水浴にいく。泊めてもらった家での樹木希林扮するおばあさんが、ヨーコが失恋したことを言い当てる下りが、これまた楽しい。

そして戻ってくると、突然、薫の母が帰ってきて、ヨーコは出ていき、薫は母の元に、弟は父の元に引き取られることになる。父親に別れを言うときの薫が、「わんわん」といって父親の体にぶつかるシーンは、本当に切ない。

そして、現代へ。

まもなく結婚する弟から、実は、子供の頃やってきたヨーコさんは隣の町に住んでいたのだと教えられ、薫が自転車で見に行く。当然会うことはないのだが、すれ違ったヨーコさんの乗っていた自転車の洋で、その後ヨーコさんの言葉が被さり、懐かしい昔を思い出して映画は終わる。

さりげない日常の中のさりげないお話ですが、主人公薫の、微妙な心の変化、子供から大人になる揺れる甘酸っぱいムードが、あちこちにちりばめられ、大人の理想としてのヨーコと現実の母親の姿が絡む、幼い少女の視点が魅力あふれる映像リズムになって、スクリーンを走り回る。流れる音楽の選曲のうまさ、テンポのいいストーリー展開に引き込まれる一本でした。本当に良い映画です。