くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「怒れ!憤れ!─ステファン・エセルの遺言─」「オーバー・

kurawan2014-04-16

「怒れ!憤れ!ーステファン・エセルの遺言ー」
ドキュメントドラマという感じの、不思議な映像で見せてくる、社会派批判映画。本来みないジャンルなのですが、みる物がないために出かけました。

一人の黒人の少女が、アフリカからヨーロッパにやってきて、不法移民の扱いで、拘束される中、ヨーロッパの不正気運動を目の前にする物語。といっても、デモシーンはすべて現実の映像で、その中で少女の姿を追いかけるので、ドキュメンタリーといえばドキュメンタリーである。

しかし、映像表現としては、かなりクオリティの高いレベルの作品で、冒頭、浜辺に打ち上げられる靴のショットから、女の子のサンダル、主人公の姿へとカメラが写る展開は見事。また、坂道を転がるオレンジが、まるで「戦艦ポチョムキン」のオデッサの階段シーンごとく石段を転げ落ちて、船に落ち込むショットや、終盤に、少女が歩くシーンにかぶって空き缶が転がり始めるシュールな映像、廃墟で真っ赤なドレスで踊る女性の上に、いろとりどりの紙が舞い降りてくるショットなど、目を見張る描写も印象的である。

ほとんどせりふもないし、画面から漂う映像でストーリーが語られる、という作品なのですが、地面すれすれのカメラアングルで足、足を映したり、字幕やテロップを挿入したメッセージの訴えかけが、作品に深みを与えてくる。

ラストは、どこかの建物の中で眠ってしまった少女が、気がつくと、格子扉が閉じられる時間になり、でられなくなり、壁をたたく。その音がリズムになり音楽になり、暗転エンディング。

映像を楽しむにはんかなかの一本で、ドキュメントドラマですが、相当な秀作でした。


「オーバー・ザ・ブルースカイ」
全くの前知識なしでみたのですが、映画としては、かなりのレベルの傑作でした。ただ、息苦しいほどに映像が完成されすぎているというか、演出ができあがりすぎているという感じの一本です。

物語はというと、カントリー&ウェスタンの歌手ディディエがタトウゥーデザイナーのエリーゼと知り合い、二人の間に愛娘メイベルが生まれる。しかし、メイベルは6歳の時に白血病になり、治療もむなしく死んでしまう。その悲しみにエリーゼはどんどん落ち込み、やがて夫婦の関係もくずれ、エリーゼはとうとう自殺してしまう。

ストーリーだけを語ると、非常にシンプルですが、メイベルが元気な今という時間の話と、6年前にエリーゼとディディエが知り合った頃の話、さらに、メイベルが病気になるあたりの時間、などを交互に挿入しながら展開していく。

間に、軽快なカントリー&ウェスタンの曲が挿入され、この映像転換のリズムが抜群にうまいので、全く混乱しないのです。

映画はディディエがステージで歌うシーンに始まる。そしてエリーゼとのデートシーン、さかのぼって、メイベルを妊娠したとき、さらに、生まれた後の時間、そして二人が知り合った時代と、次々と場面が繰り返される。

やがて、メイベルの死で、一端は破局かと思われる二人だが、何とか立ち直ったかに見えるエリーゼ

しかし、心の傷は癒えていることはなく、名前をアラバマなどと改名しディディエの元を去る。それでも一緒にステージに立ち歌うのだが、その夜、アラバマは薬自殺をする。見つけたディディエ(改名してモンロー)が救急車で病院へ行くが、まもなくアラバマは息を引き取る。いったん、モンローの元を喧嘩して去ったかに思えたアラバマだが、体に二人の名前を彫った入れ墨が写されエンディング。

頻繁にでてくるカントリー&ウェスタンの曲のリズムが、アメリカ映画かと思わせるが、ベルギーの映画である。しかも、時折、アメリカのテロ事件やブッシュ大統領のES細胞否定演説などが挿入され、それを批判するディディエのカットなども挿入されるので、ヨーロッパ映画の色合いは、やはりアメリカ映画とは違うと実感するし、ましてや日本人である我々には入り込めない国柄も見え隠れする。

場面場面のカットバックや、カントリー&ウェスタンを多用したリズム感などは見事な映画で、その意味では一級品の傑作だと思います。しかし、やっぱり、エリーゼが死んでしまうのはつらいですね。未来が見えないのは寂しいラストシーンでした。これがヨーロッパ映画なのでしょうか。