くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「8月の家族たち」

8月の家族たち

非常に質の高い作品であるが、いかんせん、大嫌いなメリル・ストリープが抜群の演技力で、物語を引っ張っていることと、もっとも苦手なアメリカンファミリーのどろどろの群像劇というジャンルでなかったら、最初からもっと引き込まれていたかもしれない。しかし、映画としては素晴らしい出来映えの一本だった。

メリル・ストリープ扮するヴァイオレットの夫が失踪していたが、その夫が自殺したために、娘たちが集まってくるところから映画が始まる。

離婚問題に悩む長女バーバラ、そして反抗期の娘ジーン、次女カレンはいかにもプレイボーイな恋人を連れてくるし、三女アイヴィーはいとこのリトル・チャールズとの恋仲を認めてもらおうとしている。

夫の失踪により、薬付けになっているヴァイオレットは、葬儀の後の会食の席で、訳の分からないことを言い出し、娘たちを責める。それまで、ぎこちないながらも何とか平衡していた兄弟、娘たちは、一気に平衡が崩れ、それぞれの本音が表になり始める。

元々が戯曲であるために、室内劇の群像劇として展開していくが、メリル・ストリープの圧倒される演技に、周りがぶら下がるようについていく感じである。しかも、その鬼気迫る感情の変化の表現は、どろどろのドラマを、エンターテインメントかと思わせるうねりを作り出すのだからすごい。

終盤にかけ、バーバラたち姉妹の確執から、ジーンの危うさ、アイビーとリトルチャールズが実は姉弟だったという韓国ドラマのような展開まで起こり、一人又一人とヴァイオレットの元を去っていく娘たち。そしてヴァイオレットの夫の死のいきさつを、バーバラが知るに及んで彼女も又去っていく。

一人残ったヴァイオレットは、女中のジョナにすがり、泣きぬれる。一端は飛び出したバーバラは、車に乗って彼方に走り去る。家に戻るのか、遠くへいくのかわからないが、暗転、エンディング。

終盤、一人になったヴァイオレットが、レコードをかけ、踊り出すシーンは、息をのむ迫力である。

映画としての質の高さ、戯曲としての完成度の高い物語は納得の一本であるが、そのハイクオリティが、映画を見慣れない人には、しんどいことも確かかもしれない。とはいえ、見事な映画だった