くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サクラサク」

サクラサク

しっかりとした俳優が演じると安心してみることができる。真摯に作られた映像とストーリー展開、美しい日本の景色を、ややあざとい配置で映し出した、きまじめな大人の日本映画でした。

田中光敏監督の作品としては前作の「利休にたずねよ」よりも良かったかもしれない。

映画が始まると、白塗りの子供が舞っている。そして、タイトルが鮮やかにかぶる。映像派の監督だと判断すれば確かにそうだが、ちょっとわざとらしいように思えなくもない。

物語は、時々、痴呆の症状がではじめた俊太郎とその家族の物語。雨の中、訳のわからない舞を舞いながらの俊太郎のカットに映像が続く。

息子の俊介は会社でもエリートで、部長として出世街道を進んでいる。まもなく役員になろうかという時期である。息子の大介はフリーターで、娘の咲子はマイペースの女子高生。妻の昭子はそんな家庭の中で孤立し、庭いじりにストレス発散をしている。

こういう状況が導入部で語られ、今時の普通のよくある設定である。しかし、所々に挿入されるインサートカットが美しい。

俊太郎はというと、時々記憶が飛んで、粗相をしたり徘徊したりというシーンが繰り返され、実はそんなおじいちゃんにおむつを買ってやっていたのが、反抗ばかりに見える大介だと知った俊介は、今まで家族を見ていなかった自分を反省し、ある週末に家族全員を乗せてドライブにでる。時折俊太郎がつぶやいていた、子供の頃に過ごしたお寺を目指すのである。

老人の痴呆問題を取り上げた作品ということで、最後の最後まで、見るつもりはなかったのだが、とうとう最終日に見に来たのです。

しかしながら、思いの外しっかりとできた作品でした。

確かに、痴呆老人を描く上でのおきまりのシーンと、それに嫌悪感を露骨にする妻昭子や子供たちの冷たい反応はありきたりですが、俊太郎を演じた藤竜也の演技が実に好感で、まともになったときに、子供や孫に語るせりふが味わいがあっていい。それが救いになって、平凡な痴呆老人に振り回される家族の物語に終わらなかったのが良かったかもしれません。

俊介は役員推薦が決まる日に会社に戻らず、とうとう、俊太郎の子供時代に過ごした寺を見つけ、家族そろって、桜の木を見上げてエンディングですが、果たしてこの家族にどういう未来があるのかと現実に戻ると、実に現実味にかけるエンディングになった気がする。映画になっていないといえばそうなのである。

確かに、家族は一つに再生したかもしれないが、その再生の課程が実にあっさりとしているし、役員のいすを蹴った俊介のこれからの立場がどうなるかは、普通に考えれば厳しい。それでも、立ち直った息子の大介や娘の咲子がいい子になって、家族は大丈夫かもしれない。しかし、明らかに俊太郎は入院せざるを得ないのである。

桜の木、子供歌舞伎のシーン、山間の村でのお祭りのシーン、夕焼けの景色、等々、日本情緒が至る所に盛り込まれた映像づくりは、とにかく、大人の映画に仕上がっているが、いかんせん、どこかちぐはぐなのである。

この監督の作品は、前作「利休」同様、見終わって、最初はいい感想が浮かぶが、いつのまにか、なにか今一つという感覚がわき起こってくる。不思議な映像である。