くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「クジラのいた夏」「WOOD JOB!神去なあなあ日常」

クジラのいた夏

「クジラがいた夏」
吉田康弘監督作品は、非常に荒削りなのですが、きっちりとストーリーをぶれさせずに、それでいて、映画としての映像もちゃんと織り込んだものになっている。その魅力は今回の作品でも発揮されていたと思います。

プールサイドで四人の高校生が、空を仰いでいるシーンから始まる。近くの水族館に鯨がきていると誰かが言い出し、四人はその鯨を見るために自転車へ。タイトル。

田園のまっただ中を、自転車がかけるシーンを横にとらえる。そして三年後、主人公チューヤが思い出の写真やらを焼いている。まもなく東京に行くチューヤのために、友達のジェイ、ギズモ、町田が送別会を開くために集まってくる。こうして、始まる一夜の物語がメインである。

ジェイが運転するぼろいライトバンで、まずは貸し切りボーリング場へ。小学生の子供やボケ老人のコミカルシーンのあと、高校時代のチューヤの片思いの有栖川に出会ったり、元カノをソープへ会いに行ったり、そして、あるスナックで、あこがれの弓子先輩に再会するチューヤ。しかし、これも、ジェイたちのチューヤを東京に行かせないための仕掛けだったことがわかり。

時折、高校時代のシーンを繰り返して挿入し、巧みな編集で、田舎の青春ドラマをほろ苦く切なく描いていく手腕は「江ノ島プリズム」の吉田監督ならでは。

深夜、寂れた地元の商店街で暴れた四人に、騒がしさで目を覚ました商店街の住人が、「仲良くしないといけないだろ」等々の声をかけるシーンは、実に人間味があふれていてうまい。

結局、チューヤはいつまでも友達に甘えることなく、一人ライトバンに乗って走り去る。「どこへ行く?」と助手席に語りかけて暗転。

クジラは?というと、弓子先輩に最後の別れと告白しにいった高校時代のチューヤを迎えた三人が、行程にクジラを書き、それを屋上から見せる。

いつも、傍らに友達がいる。その、モダンなようで、どこかノスタルジックなほどに古くさいメッセージが、映画的な映像の積み重ねで描かれる物語は、たわいないながらも心に残るのです。「江ノ島プリズム」ほどの出来映えではありませんが、商店街で暴れた四人が、「離したくはない」を歌って向こうへ消えるショットもなかなか。

佳作とはいえないまでも、好きですね吉田康弘監督の映画は。そんな一本でした。


「WOOD JOB! 神去なぁなぁ日常」
う〜〜ん矢口史靖監督作品にしては、普通の映画だったような気がする。三浦しをん原作の映画化であるが、普通にストーリーが展開し、矢口監督ならではのユーモアの中の感動というのが物足りなかった。

映画は、大学受験の発表の場所から始まる。いまどきのちゃらちゃらした高校生が、喜んだり落ち込んだりするシーンから、主人公平野勇気が友達とカラオケ、そして、大学入学を果たした友人の後ろ姿を見て、自分との距離を感じる深夜の商店街のシーンへ続く。

たまたま街頭のパンフレットで、一年間の林業体験を決意。といってもパンフレットのモデルの女性に曳かれてのことである。今時ありえるか?というさらっとした導入部、そして、厳しい林業の現場でのチャラチャラした平野の態度との確執。と、普通に展開、地元の人々と次第に打ち解け、木に対する態度が変わっていくという展開は余りに平凡。そこに、矢口監督独特の笑いのエッセンスがあるが、今一つ的を射ていない。

やがて一年が立ち、一人前に大人への一歩を踏み出していく平野。地元の女性直紀とのほのぼのラブストーリーは控えめに、祭りのシーンをクライマックスにもっていくのだが、どうも物語が動かない。結局、切ない別れ、都会に戻ってくる平野だが、新築現場の木のにおいをかいで、再び中村林業の場への電車に乗ってエンディング。

今まで、オリジナル脚本故に、自由奔放に映像を駆使し、ストーリーで遊び、映像をおもしろくしていた矢口監督作品だが、原作の足かせがあったのか、のびのび感が物足りなかった気がします。それに、染谷将太がやや鼻につくのも、映画を停滞させたかもしれない。つまらないわけではないけれど、拍手するほどの爽快感はなかったかな。