「ぼくたちの家族」
今一番脂ののっている石井祐也監督作品。主演は、デビュー当時から大ファンの原田美枝子である。
原田美枝子が主人公玲子を、友達とお茶をしているファーストシーンから、抜群の演技力で、さりげない異常をちらほら見せながらのふつうの会話を演じていく。
ふと物忘れするシーンから、長男浩介とい妻の家庭のシーンを挟みながら、今時の大学生俊平が金の無心で母親を呼び出す導入部、さらに浩介の両親を交えた食事の場面で、玲子の異常さが一気に吹き出していくあたりまで、原田美枝子の演技力が、観客を引きつけてしまう。
そして、検査の結果、一週間後が山場だといわれ、家に帰ってみれば、父親の事業は破産寸前、母親は家計のやりくりにサラ金に借金があるという状況があきらかになって、見る見るどん底へ落ちていく。しかし、かつて引きこもりの経験もある浩介が、なぜかある朝、ほほえみを浮かべ、ジョギングを始め、家族が徐々にまとまり動き始めるのである。
淡々と、抑揚のない物語で、シンプルな展開だが、次第次第に、散り散りになりかけの家族が、何となくまとまる家庭の静かな物語は、なかなかのものである。
そして、一週間の間に浩介と俊平はセカンドオピニオンで、母親の病院を探し、とうとう再検査、脳腫瘍のはずが悪性リンパ腫で治療の余地ありと判断されるクライマックスへと流れていく。
初めて入院したところで、玲子が、本音を次々と語る前半部分がとってもいい。
ラストシーン、完治するわけではないかもしれないが、とりあえず一週間という山場を乗り越えた家族が、玲子の病室に集まってきてエンディングを迎える。さりげないラストシーンであり、決して玲子が助かったというハッピーエンドではないのだが、この家族は、これから大丈夫だと思えるかすかな光が見えて暗転する。しかも、メインタイトルはこのラストシーンまで写されないのである。
作品として、凡作ではないとはいえ、「川の底からこんにちは」を、石井祐也監督作品としては未だに頂点の気がするのは残念。
「オー!ファーザー」
映画のクオリティはどうでも良くて、時々大好きになる映画というのに出くわすのですが、そんな一本が、この映画。
伊坂幸太郎の原作もので、映画になって、好みでなかったものは一本もない。原作は、いまいちが多いのですが、映像向きなのでしょうね。
監督は藤井道人というひとだが、残念ながら、データがない。演出は非常にふつうであるし、若干、テンポがずれていると思えなくもない。せっかくのギャグシーンの間合いがほんのワンテンポ弱いのである。
しかしながら、ストーリー展開の構成、原作の味はしっかりとでていると思うし、なんといってもそれぞれのキャラクターが生き生きと立っているのが成功である。
時々挿入される、主人公由紀夫の少年時代の父親との関わりシーンのタイミングが絶妙の、そのたびに胸が熱くなる。
物語は、なぜか、父親が四人もいる高校生由紀夫の周りで起こる、あり得ないようなトラブルというか、事件の数々が、何気なくつながって、いや、つながったと思って勝手に解釈したために巻き込まれる監禁事件。
拉致された息子、由紀夫を救出するための四人の父親の、サスペンスフルなクライマックスへとなだれ込んでいく。
紅白戦などと揶揄される選挙戦のさなか、土地のやくざもの富田林さんが、振り込め詐欺にあい、由紀夫の同級生は不登校で、何か裏に複雑な出来事が絡んでいるようで、その不登校性は詐欺まがいのバイトをしていたらしいという噂。たまたま、ゲームセンターで鞄をすり替えられる事件を目撃した由紀夫。由紀夫の友達が、富田林さんに頼まれた荷物の宅配を、寝坊して忘れてしまったためのトラブル。すべてが、すべて、つながったと判断した由紀夫が、不登校の友達の所に乗り込むと、なんて、そんなことは関係なく、拉致されてしまう。
いや、関係がないわけではなかったのだが、その出来事の数々が、ラッキーアイテムにもなっていたりとする終盤のおもしろさは、なかなか。
結局、父親の連携で見事に救出され、エピローグは母親が出張先から帰ってくるが、帰り道合コンにいくという連絡が入り、エンディング。
結局、大学教授の悟はクイズで一千万とれたのかどうかはわからないままだが、最後まで、父と息子の暖かすぎるドラマに終始し、全編胸が暖かい映画だった。大好きな一本になりそうな作品でした。