くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グランド・ブダペスト・ホテル」「陽気な日曜日」「トラフ

グランド・ブダペスト・ホテル

グランド・ブダペスト・ホテル
めくるめくような、ウェス・アンダーソンならではの、シンメトリーでシュールな映像に彩られた迷宮のような導入部に、さすがにこの監督のファンとはいえ、睡魔におそわれてしまった。しかし、独特の感性で彩られるストーリーは、散らばった毒もさることながら、作品全体が謎に包まれたミステリーの王宮に変わっていく様は、見事である。

映画は雪景色の町に、一人の女性が、ある銅像のところへやってくるところから始まる。その銅像は、ある作家のもので、彼女はその作家の本を持っている。その本の題名は「グランド・ブダペスト・ホテル

物語は、この本の中で作家がホテルで出会った一人の男、ゼロから聞き及ぶ不思議でミステリアスなストーリーを読む形で進んでいく。

例によって、壮大なくらいに作り込まれたブダペスト・ホテルの内装のみならず、独特の構図で見せる雪山の景色、ゲームの中の世界のような奥行きのある映像が次々と展開していく。その非現実な世界に翻弄されながら語られる物語は、高級ホテルの名コンシェルジュとベルボーイの冒険物語である。

あちこちに登場する、名優たちの迷?演技もさることながら、ドアに挟まれた指がばさっとちぎれたり、箱の中に首が入れられていたりとグロテスクな場面も満載。さらに、謎の男の登場、冤罪で投獄されて、まるで脱獄映画のように穴を掘って脱出するサスペンス。盗んだ絵に隠されている謎の手紙、などなど、ちりばめられすぎたミステリアスな伏線にも翻弄されてしまうのである。

しかも、映像が特異なものだから、どれを楽しむのか、どこの物語を追いかけるのかと、必死になる。その心地よさに酔いしれていると、やがてクライマックスへとなだれ込み、雪山を駆け抜けるスピーディなシーン、絵の裏に仕組まれた手紙の中身の真相。主人公たちのその後へと続いていく。

オープニングのシーンに戻ってのエンディングですが、まるで、一瞬の別世界に放り込まれた感覚に陥る作品でした。ただ、今回は、やや、作り込みすぎたような気がしないでもないです。


「陽気な日曜日」
ルネ・クレールのコメディを思わせる作品で、ひょうきんものの二人が、車を調達して、それにお客を集めてお城巡りツアーを企画する。その中で、妙なレストランに立ち寄ったり、集まらない客を巧みに呼び込んだ入りというコミカルな展開が中心のストーリー。

これというものはないが、ちょっとしゃれたフランス喜劇という空気が漂う一本でした。




トラフィック」(ジャック・タチ監督)
アムステルダムで開かれるモーターショーに出品するために、中小企業の自動車メーカーがその展示品であるキャンピングカーを乗せて会場へ向かう。やたらスピード強の宣伝担当の女マリアの車が疾走するのと、トラックがパンクしたり、事故にあったりというトラブルで追いつ追われつする前半から、国境警察に捕まっての足止め、事故にあって、壊れた展示車の修理する一日などを描く後半へコミカルに展開していく。

ジャック・タチ扮するユロ氏が主人公だが、いつものように彼が次々とトラブルを起こすというより、車がまるで生き物のようにコミカルなエピソードを生み出していくのが独特の一本。ある意味、風刺かもしれない。

出だしのタイトルバックは、車を作る工場のシーンにかぶるし、いつものような鮮やかでモダンな建物よりも、かなり現実に近い風景画今回は採用されている。色彩も、色鮮やかなところは少なく、画面のほとんどはリアリティある世界だ。先日見た「プレイタイム」の車のシーンのほうが鮮やかだった。

一番の見せ場が、マリアが走り抜けた交差点で、警官があわてて、車が混乱し、交差点内で事故が次々起こる。もちろん、ユロ氏のトラックも巻き込まれ、まるで、セットのようにくるくる回る車や、アクロバティックにひっくり返る車など、明らかに人間のように車を描写したコミカルで、ややアイロニーのあるシーンである。

結局、トラブルばかりで、キャンピングカーが着いたときはショーは終わっていて、怒った自動車会社の部長はユロ氏を解雇。とぼとぼ帰ろうとするユロ氏にマリアが駆け寄り、いったんは地下鉄に消えるユロ氏だが、傘に巻き込まれて再び上ってきて、マリアと共に相合傘で消えていってエンディング。

いつものコメディではあるが、ちょっと色合いが違うし、どこかラブストーリー的な感動もさりげなく呼び起こされる一品でした。