見逃していた作品を「午前10時の映画祭」でみることができた。
ご存じ、ロマン・ポランスキー監督の名作の一本。ジャック・ニコルソン全盛期のサスペンスミステリーである。
映画は、警察を辞めて私立探偵をしている主人公ジェイクの事務所で、浮気調査をして女性のSEX場面が写っている写真を見るシーンから始まる。色調を押さえた上品な画面が1930年代のロサンゼルスを品よく映し出していく映像がまず見事で、薄いイエローオーカーの壁に木目のブラインドが写るこのファーストシーンはすばらしい。
物語は、この事務所にモウレー夫人という女性が夫の浮気調査を依頼しにくるところから始まる。
ところが、浮気調査して、写真を撮り、その背後を調べた直後、突然、新聞に浮気の事実が公表され、しかも、もう一人の、こちらが本物だというモウレー夫人が現れて、物語は、一気にミステリーへとなだれ込むのである。しかも、夫のモウレー氏は溺死、しかし、ジェイクはこれは殺人だと調査を始める。
次々と見えてくる謎をおいながら、クラシックカーで走り回るジェイクのシーンが実に美しいし、ダムの水源の利権が次々とストーリーを複雑に、しかも、さらなる展開へ誘う脚本が実にうまい。
本物のモウレー夫人と行動をともにするうちに、どこか惹かれていくジェイク。そしてその父ノア・クロスの存在感が大きくなってきて、モウレー夫人が夫の愛人キャサリンを隠している事実を突き止めたジェイクは、そこで驚愕の事実に直面する。
モウレー夫人と父ノアの間に生まれたのがキャサリンで、近親相姦の事実、そして、モウレー夫人が必死で隠すキャサリンへの愛情、さらに、ジェイクの愛をからんで、クライマックスの悲劇へとなだれ込んでいく。
まるで、オーソドックスな探偵小説の名作を読んだような映像に、とにかく満足感あふれる読後感のような鑑賞の後の心地よさを感じられる一本だった。これが名作。