くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さらば、わが愛 覇王別姫」「愛妻記」

kurawan2014-08-07

さらば、わが愛 覇王別姫
20年ぶりくらいで、大スクリーンで見直しましたが、やはり寒気がするほどにすばらしい作品でした。

小豆と石頭が出会い、やがて一人前の京劇俳優になるまでを、辛い修行の場面と、二人の友情、いやそれ以上の心の交流を描き、成長していく彼らをとらえる前半部分。

やがて訪れる歴史の波の中で、押しつぶされそうになりながら、お互いの気持ちが、付きつ離れずして、その中で根底では揺るぎなく絆を深めていく後半部分の愛憎劇の部分。

壮麗なくらいの映像演出で描き出すチェン・カイコーの力量に圧倒され、スクリーンから目を離せないほどに引き込まれる。

映画は、二人がバラバラになってから11年後、再び覇王別姫を演じるために出会うシーンを、なにもないホールに照らすスポットライトとナレーションの言葉から始まる。

物語は、ここから激動の過去へ戻り、やがて再び冒頭のシーンになって、二人が覇王別姫を舞い、物語の中でそのキーアイテムとして何度も登場する刀を手にして、蝶衣が自ら命を絶つシーンで、現実と舞台が一つになり、暗転するまで、息をもつかせない展開でぐいぐいと描いていく。

赤い炎の揺らめきの後ろに蝶衣が舞う場面、繰り返される舞台シーンが、歴史の変遷によってその姿を次々とかえる描写、妖艶な仕草で、振る舞うレスリー・チャンの演技、それをうけるチャン・フォンイーのごつい存在感、コン・リーの心境の動きなど、鬼気迫る映像である。

3時間ほどの大作だが、そのスケールの大きさと芸術性を見せつけられる一本でした。


「愛妻記」
久松静児監督の文芸映画である。
昭和の初期の東京を舞台に、下出で生活する貧乏作家の主人公多木が、知人が連れてきた女性芳枝と何となく結婚することになり、持ち前の明るさで駆け抜けていく妻の姿を通しての人情ドラマである。

司葉子扮する芳枝の脳天気なくらいの明るさが、少々鼻につくのであるが、フランキー堺扮する多木の、どこか調子がいいようで、なるようになるキャラクターなのに、自分の貧乏生活に新妻が嫌気がさし、でていくのではないかという平凡な不安を抱える姿が、何とも巧妙におかしい。

作品としては普通の映画であるが、さすがに久松監督の演出は、実にそれぞれのキャラクターを引き立たせ、個性的に描くことで、凡々たる物語に鮮やかな色合いを生み出していく。
さらに、画面作りの美しさも、文芸映画ならではのごとく、横長の画面を有効にとった構図、配置が、実に美しく、その中で動き回る俳優の立ち居振る舞いが、本当に品良く描かれている。

引き立つほどの傑作、名作ではないが、とっても良質の作品で、さすがに久松静児の力量をしっかり感じ取ることが出来る一本でした。