くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ローマの教室で〜我らの佳き日々〜」「くちづけ(増村監督

kurawan2014-09-03

「ローマの教室で〜我らの佳き日々〜」
とってもしゃれたヒューマンドラマの秀作。さすがに、こういう空気の映画はヨーロッパ映画でないと出会うことができない。

物語はどこにでもある高校。生徒は好き放題に教室にいて、先生を敬うこともしない。一方の先生もそんな生徒たちに、あえて、関わろうとしない。

というような学校を舞台に、学校の内と外を分ける校長ジュリアーナ、熱血の国語補助教師ジョヴァンニ、生徒を皮肉る熟練教師フィオリートの三人に焦点を当ててストーリーが展開する。

それぞれに、問題のある生徒たちが絡んできて、よくあるような、それでいて、生徒にとっても、教師にとっても何らかの成長につながる展開がとにかく魅力があるのです。

フィオリートが自分の部屋から飛び降りらんばかりに窓に乗ると、眼下に工事の車がやってきて、とどまるのだが、終盤、そこに緑地帯が造られているという展開がとっても好きである。

そして、毎日が無味乾燥に思っていた彼に、かつての教え子が訪ねてきて、教師であったことを再認識する。

生徒に借りたボールペンをなくしたと思って、あちこちで大量に買うが、結局、エンドタイトルの映像で、上着の脇に入っていたのを見つけるジョヴァンニ。派手な女子生徒に翻弄され、嘘だと思っていた母の死や父の失業が本当だったと知ってほっとするラスト。

生徒を病院で看病し、学校の外までは行かないという信念を曲げることで、人間としての心のつながりを見つけるジュリアーナ。

ただの教える立場だけだと思っていたそれぞれの教師たちが、教えられていることに気がついて、生きている実感を取り戻すのがとにかく、とっても気持ちがいいのです。本当にしゃれたヒューマンドラマでした。


「くちづけ」(増村保造監督版)
日本映画とは思えないヨーロッパの息吹を感じさせる青春映画の傑作、まさに増村保造監督デビュー作にふさわしい見事な映画だった。

主人公欽一が留置所にいる父の面会にくる場面に始まり、そこで、同じく父に面会にきた一人の女性章子と出会う。そして、そのまま二人はひとときを過ごし、いつの間にか恋に落ちるが、決して体を求めるとか、キスをするとかさえもしない。

お互いに父親の保釈金が10万円で、欽一は、事業をする母親に金を借りるが、一方の章子は、自分を求めている有名画家のドラ息子に自分を売るつもりで金を借りようとする。

すんでのところで、欽一が駆けつけ、章子父親を保釈させる金を渡し章子を助け、章子の父を保釈させる。
欽一の母が欽一に、父を迎えに来た章子父子を見て、車で「乗せてやるかい」といって章子とその父親を車に乗せ走り去ってエンディング。このラストが実にすばらしいのだ。

出だしからラストシーンまで、全く緊張感を途切れさせることなく、男女のピュアなラブストーリーを描ききる増村監督の演出リズムがさえ渡る一本で、これが日本映画かと思わせる構図も多々見られる必見の作品でした。全く見事。


「巨人と玩具」
増村保造代表作の一本で、鬼気迫る映像、機関銃のように、隙のないせりふが飛び交い、その息苦しいほどの映像演出にぐったいりする傑作だった。まさに増村作品の真骨頂である。

物語は、三社のお菓子業界の辛辣な広告合戦と売り上げ競争を、高度経済成長期のビジネスマンを皮肉る形で描いていく。

下町のはすっぱ娘京子を宣伝ガールのスターに育て上げるが、やがてライバル企業に引き抜かれ、それでも、競争に勝ち抜くために、狂っていく宣伝マンたち。そこに見え隠れするのは、働き蟻といわれた当時の日本人サラリーマンの悲哀、愚かしさが睨みつけるような迫力で迫ってくる。

血を吐きながらも、売り上げアップのために宇宙服を着ようとする上司に代わり、宇宙服を着て夜の街頭にたつ主人公西、その後ろからライバルの女宣伝マンが「笑いなさい」とささやき、ピエロのようにほほえむ鬼気迫るラストシーンは圧巻である。

まるで、スクリーンの向こうから増村監督がこちらをにらんでいるような怖さを感じる一本で、ぐったりとした鑑賞後感を味わうが、この充実感がすばらしい。まさに、代表作と呼べる傑作でした