くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「妻は告白する」「爛(ただれ)」「黒の試走車」「偽大学生

kurawan2014-09-08

「妻は告白する」
まさに、増村保造監督の真骨頂、恐ろしいほどのカメラワークとなめるように人物をとらえるカメラアングル、そして、不気味なほどに計算されたライティングが、息苦しいほどの画面を作り出す。そして、徹底的に人間の心の内面を見透かすような演出に度肝を抜かれるのである。

映画は、裁判所にやってきた主人公彩子がタクシーを降りる場面に始まる。登山の最中に夫のザイルを切り、夫を殺害したという罪に問われている彼女、そして彼女には、一人の愛人幸田の姿がある。

カメラは、時に見上げるように、時に俯瞰で見下ろすようなアングルを繰り返し、人物の背中から彩子を見据える。顔の半分くらいに光が当たるように工夫されたアングル、これらの演出が最高潮を迎えるのが、クライマックス、無実の判決の後、幸田に疎まれ、幸田の会社にずぶぬれでやってきたときの彩子のショットである。

カメラは、人物の彼方にたたずむ彼女をとらえるゆっくりと頭から足にかけてカメラが張っていくと、塗れた草履が汚れている。

そして、この後、彼女は洗面所で、鏡を見て「殺人者の顔」とつぶやいた後青酸カリを飲む。そして幸田が今度は殺人者だとかつてのフィアンセにいわれ、一人残ってエンディング。

恐ろしい。この人間の心の真相に立ち入っていくような不気味なほどの、演出に、見ている私たちは、一瞬、自分の心が見透かされたかのような寒気を感じるのだ。

おそらく、作品としては増村保造監督の最高傑作だろうと思われるが、モノクロを選んだ彼の恐ろしい才能に頭が下がる一本だった。


「爛(ただれ)」
新藤兼人が脚本に絡んでくると、相当ねちっこい作品となっているが、さすがに増村保造監督の世界でもある。圧倒されるほどの陰湿さ、いかにも何か起こりそうな不気味さが、増村監督ならではのカメラアングルと、人物をとらえる描写に加わって、まるでミステリアスさを倍増させるのである。

物語は、自動車の営業マン浅井の妾である増子を主人公に、浅井の本妻を追い出し、やがてその本妻は狂って死んでしまう。そこへ田舎から主人公の兄の娘で、いかにも性悪な女栄子が転がり込んできて、当然ながら、浅井をとってしまう。しかし、とられまいと、執拗なまでに画策をして、田舎の青年と結婚させてしまう増子の女の執念。

避妊をしたのを元に戻すために入院している増子の病室の外でカラスが鳴いたり、ラストシーンで、田舎に娘を見送った後に流れる不気味そのものの音楽、そして、下着だけになり寝室に消えていく増子のシルエットによるエンディング。

ぐいぐいと胸に迫ってくるような重苦しさが全編に漂う、これこそ、女の情念を描く増村保造監督のスタイルの特徴でもある。

画面いっぱいに人物をとらえる緊張感あふれる構図、繰り返されるせりふのスピード感、照明演出の見事さ、これもまた彼の代表作と呼べる一本だった。


「黒の試走車(テストカー)」
自動車メーカーの産業スパイ同士の情報合戦を描いた社会派サスペンスの傑作。冒頭からラストシーンまで、息つく暇のない緊張感が漂う作品である。

例によって、思い切り人物に寄ったカメラアングルの迫力、常に何かを凝視するような視線のカット連続、恋人をも敵のスパイに与え、裏切りと、だまし合いが横行する企業内の姿が、リアリティ満点に描かれていく。

おそらく彼が真スパイだろうという船越英二が、やり玉に挙がるクライマックスは、まさ目的のために手段を選ばないという登場人物たちのどろどろした部分が最高潮に上り詰め、そして、主人公と恋人の浜辺でのむなしいシーンで幕を閉じる。

見応え十分な増村作品の一本でした。


「偽大学生」
白坂依志夫のすばらしい脚本の力もあって、一本の傑作に出会いました。

一見、コミカルな題名であり、その導入部はかなりのほほんとしていますが、どんどん物語が辛辣になり、深刻になり、より深い深淵へ落ち込んでいくような深みのある展開へ進む下りは驚くべきものでした。

映画は、大学の合格発表の場所。一人の青年大津が、掲示板を見ているが不合格らしい。家に帰ると、田舎の母からの心配の手紙、思わず、合格したと電報してしまい、偽大学生になるが、そこで、学生運動へ引き込まれる。そして、そこに居場所を見つけたのもつかの間、警察に捕まったときに偽物とばれ、それが学生たちにばれて、スパイに疑われ、監禁される。

解放されたものの、本当に気が狂ってしまうエンディングは、寒気がするほどの恐ろしい。

前半は学生運動を風刺しているかのような展開だが、次第に、正義とはないか、真実とは何か、善と悪の区別さえも曖昧になっていくあたりはもうため息がでる。

真実を知る、フランスへ留学する学生の存在、正義は正義であり法は守るべきだと説く睦子の父の存在、正義だけを振り回しているようだが、実は自分の保身を逆手に、偽善者となっていく学生たち、それぞれの人物が、胸に突き刺さるほどに人間の本性をむき出しにして、訴えかけてくる。その鬼気迫るほどの息苦しさに、ものすごい充実感に驚愕してしまう。

ラストで、精神病院の廊下をかける大津の狂った姿は、名シーンと呼べるものかもしれません。