「兵隊やくざ」
増村保造監督反戦映画の名作である。女の増村と思っていたが、この映画、男臭いアクション映画ながら、とにかくおもしろい。
昭和18年の満州、陸軍の駐屯地を舞台に、知恵で乗り切っていく田村高広扮するインテリの成田と、以前はやくざで、義侠心はあるが暴れん坊の勝新太郎扮する大宮が、絶妙のコンビで、部隊内で起こるトラブルを乗り切っていく。その痛快さが実に心憎いほどにテンポがいいし、爽快なのである。
トラブルの発端を大宮が起こし、それを巧みな世渡りの知恵で解決していく成田。それも大宮の不満をしっかりと受け入れ、消化しながら円満にまとめるという展開の繰り返しがとにかく最高。
しかし、単なるアクションにとどまらず、戦時中に軍隊の中の悪習、風刺、皮肉を効かせていくのだから、さすがに増村保造、ただでは描いていかない。
暴れん坊という評判の大宮がやってくる導入部、彼の人間性を見抜き、巧みに信頼を得ていく成田、二人の間にめんどくさい友情が芽生えるなんていう描写をいっさい排除し、ただ、自然と二人の間の信頼感が画面から見えてくる。
やがて、戦況は悪化、いよいよ、死地へ派遣されるという時になり、今まで助けられるままだった大宮が、成田を助けて、脱走してエンディングこれこそ男の痛快アクションドラマである。脚本の菊島隆三にも拍手したいまさに名作であった。
「ヴィクとフロ、熊に会う」
正直なところ、何のこっちゃという感じの映画。確かに個性的ではあるけれども、だから何なのかという物である。
映画は一人の女性ヴィクが、二人の少年と対峙しているシーンに始まる。小さい方の少年がトランペットを吹くが、それがへたくそだとヴィクがはなす。
彼女は、刑務所を出所し、友人のフロと一緒に田舎の山小屋にやってきた。二人はレズビアンらしい。そして、叔父である老人がいて、傍らにラジコンヘリで遊ぶ青年がいる。どこかシュールなオープニングである。
ヴィクたちを追いかけて、いかにもな女と、男がやってきて、彼女の足を折ったり、最後はフロと二人を熊の罠にかけて放置、二人はやがて命つきてしまう。
亡霊のように二人は道を去っていき、ラジコンヘリで遊ぶ青年、二人の遺体を運ぶ警官などのカットがかぶる。
たしかに、オリジナリティある作品だが、ちょっと奇抜さも見せられるクライマックスの映像が、やや偏りを感じる一本でした。
最初のあたりで少し眠ってしまって、ストーリーがわからなくなったのかと思ったら、そういう単調な展開ではなくて、現実とも幻影ともつかない展開であることがラストでわかった。ちょっと、不思議な一本でした。
「ロンドン・リバー」
本当につらい映画だった。確かに悲劇を訴えないといけないのかもしれないが、ストレートすぎるのがとにかくつらい。
物語は一人の女性エリザベスが岸壁の上を歩いている。カットが変わると2005年、ロンドンで起こったバスを爆破した自爆テロ事件の報道に移る。ロンドンにいる娘に電話をするがでない。何度してもでないので不安になって、ロンドンへ行くエリザベス。
一方、フランスから息子を捜しにきたアラブ人のオスマン。
やがて、それぞれの娘と息子が恋人同士だと知り、二人で探すことになるのが本編。
アラブ人と英国人という宗教的な問題も絡み、最初はこだわるエリザベスも次第に打ち解けてきてという人間ドラマかと思いきや、ラストで、どうやら二人はフランスへ旅行に行ったことが判明。このままハッピーエンドかと思ったら、実は爆破されたバスに乗っていたという悲劇のエンディング。
何となく、予測がついた物の、こうもストレートに描かれるとやはりつらい。しかし、この事件そのものの衝撃はこれほどの物だったのだろう。作品としては普通だが、充実した内容の一本だった。