くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「刺青(いれずみ)」「痴人の愛」(増村保造版)「ルパン三

kurawan2014-09-18

「刺青(いれずみ)」
新藤兼人の脚本、西岡義信の美術、そして宮川一夫のカメラを得て描く増村保造の女の情念と映像美学の頂点。そのすばらしさにオープニングからため息が途切れることがない。

背中に女郎蜘蛛の彫り物を入れられ、魔性の女に変わっていく若尾文子の演技の、狂おしいまでの妖艶さもまた見事な一本で、冒頭から黄色と赤の着物、雪景色、雨、雷鳴、人物の配置、ライティングなどどれをとっても、美学の頂点を極める。

左右に偏った構図と、美しい調度品や景色の配置、それぞれがおどろおどろしい情念の世界を演出する様は、まさに狂気の世界に近い。しかし、これが谷崎潤一郎の世界であり、増村保造の真骨頂である。

細かい部分を取り上げるのがおこがましいほどに、息苦しいまでのスクリーンから漂う空気に、すっかり酔いしれてしまう。これこそ名作である。すばらしかった。


痴人の愛」(増村保造監督版)
本来、この物語は好きではないが、さすがに増村保造が描くと、徹底的に男をバカに描き、女を小悪魔に描ききる。この容赦のない演出が見事にラストシーンで鬼気迫る映像として開花するのだから、まさに増村の独壇場の世界である。

一人の女ナオミを、自分好みの女にするべく、引き取り、育てようとする導入部から、次々と男遊びをし、ジョージに嫉妬で狂わんばかりにする中盤、さらに、業を煮やしたジョージがナオミを追い出すも、彼女の魅力から逃れることができず、そんなジョージをもてあそびながらも、実は自分もジョージから離れられず戻ってくるナオミの姿。

そして鬼気迫る形相でナオミにむしゃぶりつくジョージのシーンから、狂ったように馬乗りになり叫ぶナオミ、そしてエンディング。

間断のないクライマックスの映像に、この物語を集約させた増村保造の演出のリズムの組立が絶品の一本、これこそ増村の世界である。


ルパン三世
とうとうやってしまった名作アニメの実写版という感じである。期待もしてないから、この程度でいいかなという出来映えが、みる前からできている感じである。

で、見たところ、とにかくまじめに作られている。アニメの実写版ながら、ストレートなアクション映画にしようと、きまじめに取り組んだ様子が随所に見られる。

結果、普通の映画になった。監督が北村龍平なので、アクションシーンはそれなりに切れもあるし、登場人物それぞれも、それなりにはまり役をこなしている。黒木メイサ綾野剛もなかなかいい。玉山鉄二小栗旬もがんばってると思う。

ただ、それほど個性がないために、原作に呑まれているという感じがしないでもない。なにがどうかというより、面白味がないのだ。何のために実写版にしたの?という感じの出来映えはちょっと残念である。

確かに、原作がカリスマ的な名作なので、その気負いがあったのだろう。ストーリーもありきたりだが、どこか穴だらけなのもちょっと残念。

とはいえ、普通の作品で無難に仕上がっている。可もなく不可もない。続編を意識した終わり方だが、ちょっとそれにはバイタリティが足りなすぎる気もする、そんな一本でした。