「あした来る人」
川島雄三監督作品ということで、はるばるシネ・ピピアへ。うん、やっぱり川島雄三の映像のリズムというかテンポはとっても都会的でしゃれている。その最たるシーンが、克平行きつけの「山小屋」というカフェのシーン。軽い音楽のリズムが流れる中、この作品のh区雑に入り組んだ物語をあざ笑うようなテンポが生まれるのである。原作は井上靖である。
映画は主人公梶が、廊下の向こうからこちらにやってくるタイトルバックのシーンに始まる。梶は大阪の商工会議所の会頭なのだからかなりの人物で、東京にきたら、一人の女杏子に金を出して洋装店をやらせている。しかし二人に体の関係はなく、ただ、父と娘のごときつきあいをしている。
一方梶の娘八千代の婿の克平は山狂いで、夫婦のことをいないがしろに、山ばかり登っている。
ところがふとしたことで、八千代はカジカの研究をする曽根に会い、意気投合、一方の克平もふとしたことで、杏子と知り合い、引かれあう。
人生の偶然か、それぞれが一見他人のはずが、それぞれが実は別のところで知り合いであるというサスペンスフルな男と女のドラマが展開する。このあたりの組立はさすがに菊島隆三の脚本ならではの展開である。
克平と八千代は離婚するところまでいき、終盤で、杏子は、自分が愛した克平は、梶の娘八千代の夫であることを知る。さらに、曽根は八千代夫婦の問題に、人間の汚れを感じ、純粋そのもののカジカの研究に没頭するべく九州へ発つ。
克平は、念願のカラコルムへ旅立つが、その日、杏子は空港に現れず、二人の関係もしきりなおしになる。
すべてを知っている梶が、廊下の彼方に去っていく構図でエンディング。
川島雄三らしい皮肉めいた演出もそこかしこにみられたりするし、独特の都会的なリズムと完成度の高い脚本が、原作の味を映像として昇華させている。
川島雄三の他の傑作にくべるとレベルは落ちるのだが、隙のない展開は、さすがに個性を感じさせる一本だった気がします。
「小野寺の弟・小野寺の姉」
脚本家の西田征史のオリジナル舞台の映画化作品で、舞台版と同じく向井理、片桐はいりが主演をつとめている。
いわゆる不器用な姉と弟の、ささやかでアットホームな恋と失恋の物語で、よくあるといえばよくあるが、舞台劇らしくちりばめられたユーモア満点のせりふの数々に、終始クスクスと笑いが絶えない作品でした。
主演の二人はそれほど好きではありませんが、それなりに楽しい映画だったと思います。
ただ、舞台と映像は自ずから表現方法も違ってしかるべきで、舞台版ではあの程度ですませた好美と小野寺の弟進のエピソードは、描くべくしてしっかり描いた方が、ストーリーにメリハリがでた気がします。
姉と弟の二人それぞれの恋の予感が、どんどん盛り上がってくるべきが、ひたすら、コミカルなせりふの積み重ねに頼りきったストーリーテリングはちょっと物足りないですね。こういうところはやはり舞台と、映像の時間というものでしょうか。演劇もしている私としては勉強になった次第です。
さらに、ラストの二人の失恋劇は、予想はつくのですが、映画なら映画の語り口があるというのもちょっと、気になった点でしたね。
まぁ、荒探しをするつもりもないし、正直、二時間足らず楽しかったのですから、不満もない映画でした。おもしろかったです。