「SHIFT 恋よりも強いミカタ」
アジアン映画祭でグランプリを取ったフィリピン映画で、シージ・デレスマという女性監督で、今回が初監督作品。
PC画面のこちらから、PCに向かっている主人公エステラの画面で映画が始まる。時々、画面の隅にチャットやメールの映像がでてくるが、これも最近では珍しい演出ではない。
物語は、ミュージシャンを目指す主人公エステラ、彼女はテレフォンオペレーターをしていて、職場での仲間トレヴァーと仲がいい。彼はゲイでドレイクという恋人の男性がいる。しかし、エステラとトレヴァーは何気ない恋人のような感覚が芽生え、一方ケヴィンという男性もエステラに恋している風である。
めまぐるしいチャットやメールのやりとりと、職場での仕事仲間たちとの会話が繰り返される青春ラブストーリーだが、そのリズム感はなかなかのもので、ちょっとストーリーのテンポに乗っていってしまう。
エステラは次のオペレーターとしての就職先を探し始め、一方で、現在の職場が、大手の進出で縮小の方向に動き始める。
一時はトレヴァーとの恋に揺れたエステラだが、トレヴァーはドレイクとの仲が断ち切れず、彼を愛しているとエステラに告白する。
新しい会社での最終面接で、こちらをしっかりと見つめ受け答えするエステラの画面、ラスト「五年後あなたはなにをしている?」という質問に言葉が詰まるエステラのカットでエンディング。
女性らしい繊細な映像と、感性、テンポで描かれるちょっとしたラブストーリーで、初監督というなら、次も期待できる監督だと思える。
さりげないストーリーなのに、青春ドラマの甘酸っぱさがちゃんと描けているのがよかった映画だった。
「幸せのバランス」
暗い、後ろ向きな映画だが、人生を転落していく一人の男の姿が、実に見事に描写され描かれている。しかも、カメラワークも溝口健二がよく使う、外から室内をなめるように横にパンする映像や、室内の柱と柱を横に移動させるカットなど、なかなか映画的な手法もしっかりしている。
映画は、ある役所の書類保管場所。カメラが延々とその中を縫うように移動していくと、部屋の隅で男女が抱き合っている。そしてドンとタイトルが出る。この導入が、まず、みごと。
実はこの抱き合っていたのは、主人公の男ジュリオとその愛人。ジュリオは妻エレナと娘、息子に慕われる普通の家庭の夫だったが、ふとした浮気心から妻との間に溝ができb、やがて家を出ることになる。
しかし、友人を頼りながら転々としている中でも、何とか毎日が回っている間は、たまに会う子供たちとのひとときもほのぼのしていたが、そのうち、部屋代もままならなくなり、仕事もなくない、唯一のマイカーでの寝泊まりになってくると、だんだん、子供たちと接することもぎくしゃくしはじめ、うらぶれてくる。
そして、福祉の世話になり、食事も教会の施しを受けるようになって、ホームレスの状態になると、心配する娘にも本当のことをいえず、素っ気ないそぶりを見せる。
何かがおかしいと気がついていた娘のカミラが後を付け、教会で施しを受けている父を見つけ、母を連れて、再度父のところへ戻るが、どこへ行ったか行方不明。
実は、人生のどん底に落ち絶望した父は、市電に飛び込んで自殺を図ったのだ。
しかし、すんでのところで助かり、ベンチに呆然と座るジュリオの元に電話がかかる。今まで電話にも出なかったが、その電話をとるジュリオのカットでエンディング。たぶんカミラからだろうと予感させて映画が終わる。
家族の暖かい絆がジュリオの元に戻ったことを祈って、エンドクレジットを読む。このラストの余韻が実に暖かい。これで何とか救われた気がするのです。
イタリア映画、監督はイパーノ・デ・マッテオという人。ちょっといい映画だったかもしれない。そんな作品でした。