くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「デルス・ウザーラ」「おやすみなさいを言いたくて」「刺さ

kurawan2014-12-15

デルス・ウザーラ
四十年近く前に二番館でみたきりだが、これほど美しい映画だったかと改めて感動。さらに、ぜんぜん退屈しないストーリー構成のうまさ、テンポに改めて名作の貫禄をみました。

ご存じのように、黒澤明監督が旧ソ連に招かれ、無尽蔵にお金を使って自由に作った作品だけあって、本当に伸び伸びと作品が作られている。

第一部第二部と二部構成で、前半は、アニセーニエフが森でデルス・ウザーラと出会い、そのたくましい自然人の姿と、優しさに打たれる物語である。圧巻は、クライマックス、極寒の湖で道に迷い、夜が迫る中、茅の草を切って、仮の小屋を造って命を助ける場面である。

吹雪、沈む直前の白夜のような太陽、広がる大地やツンドラのジャングルが実に美しい。さすが中井朝一のカメラは絶品。

第二部は、アニセーニエフがデルス・ウザーラと再会し、再びツンドラのジャングルを調査するが。今回は秋から冬を舞台にするので、紅葉が本当に美しい。

やがて、老いて、目が不自由になったデルスをを自宅につれていくアニセーニエフだが、都会の生活にあわないデルスは、アニセーニエフの家族に別れを告げる。別れ際に最新式の銃を与えるが、それが原因で、デルスは殺されてしまうラストシーンへ流れる。

組み立てられる様々なエピソードの間合い、自然の姿をインサートするカットのタイミングなど、どこがどうという感想も書けないほどに、黒澤明の感性で作られた映像のリズムがとにかく見事なのである。

長い作品だが、飽きさせない娯楽性と芸術性の見事な融合に感動する一本だった。やはりすばらしい。


「おやすみなさいを言いたくて」
ジュリエット・ビノシュの熱演が光る人間ドラマの秀作、なかなか見事な一本でした。

戦場写真家の主人公レベッカは、身の危険を省みず、撮影した写真が評価の高い一流の報道カメラマンである。
ところがある日、少女の自爆テロに巻き込まれ瀕死の重傷を負う。スローモーションを多用した映像だが、このファーストシーンが実に衝撃的である。

命を取り留めたが、夫のマーカスは、毎回妻の死におびえることに限界を感じ、これ以上続けるなら別れようと言われる。娘たちも、こんな母に寂しい思いをしていた。

ところが、長女のメリサがアフリカの姿を学校で発表する計画があり、母について、ケニアへいくことになる。ところが、安全と言われていたが、現地で突然民族同士の紛争に巻き込まれ、母は本来の性格がでてしまい、メリサを先に帰らせ、危険な写真を撮る。

そのことが夫の知ることになり、家族の中に溝ができる。しかし、メリサは学校の発表で、母がこういう写真を撮り続けることがこれからも大切だと語る。これを聞いたレベッカは再び戦場へ。

実は、冒頭のシーン、レベッカは自分の娘とほぼ同じ年の少女が体に爆弾をまかれ、自爆テロの車に乗る現場に遭遇し、写真を撮れなかったのである。

冒頭とラストを巧みに組み合わせたストーリー構成。自爆テロの少女と、主人公レベッカの娘を比較した構成、一見、保守的な夫マーカスを過度に描かない演出が見事に作品をひとつにまとめている。

物語のメッセージのみならず、映像としての映画のレベルもなかなかの一本でした。


「刺さった男」
スペインの奇才、アレッキス・デ・ラ・イグレシア監督作品。先日見た「スガラムルディの魔女」ほど癖はないが、かなりなブラックなムードの一品でした。

映画は主人公ロベルトとその妻ルイサがベッドで目覚めるシーンから始まります。エリート広告マンだったロベルトだが現在失業中で、これから、友人の広告会社に面接に行くのだ。妻に送り出され、面接会場に着いたものの、なかなかあってもらえずイグレシア監督作品らしいとぼけた会話やシーンが繰り返される。

結局、雇ってもらえず、やけになって、新婚旅行で泊まったホテルへ出かけるが、なんと博物館になっていて、忍び込んだロベルトは警備員に追いつめられて、クレーンにぶら下がり落下して、後頭部に鉄筋が刺さって、動けなくなる。

集まってくるテレビ局に、インタビュー権を交渉したり、ワイドショー出演を画策したりと、救出されることより、家族のために金を残すことを考えるロベルトのコミカルな展開続く。

手術室を事故現場に設置、大勢の人々が見守る中手術へと進むが、その直前に、妻は小さなテレビ局に独占インタビューを許す。しかし、放映せずにテープを受け取る契約をする。それを見ていた大手放送局のトップが、手術の後、大金で買い取ると提案。

やがて、手術は終わるがロベルトは死んでしまう。

帰り道に大金のアタッシュケースを置いて待つ大手放送局の男のケースをけ飛ばして、ルイサと子供たちがこちらへ歩いてきてエンディング。果たして、本当にロベルトは死んだのかという疑問も残るラストシーンである。

細かいカットの繰り返しのオープニングから、テレビカメラの中継を見せる中盤、様々な人たちとのブラックなやりとりなど、独特の毒が見え隠れする一本で、このオリジナリティは癖になる独創的な一本でした。