くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サンバ」「毛皮のヴィーナス」「バンクーバーの朝日」

kurawan2014-12-26

「サンバ」
なんとも、ストーリーの組立が悪い。というか、主人公サンバに絡む人物がそれぞれ中途半端に描いているために、いったい物語の根幹がどれかが見えないのである。監督は「最強の二人」のエリック・トレダノオリビエ・ナカシュである。

映画が始まると、結婚式のパーティで、楽しく踊る人々がぱっと写り、カメラはゆっくりとその厨房の中に長回しで入っていく。そこに主人公サンバが皿洗いをして働いている。この導入部はとってもいい。思わず映画に乗ってしまうのだが、ここから、サンバが入国管理局の手違いで、滞在が拒否され、収容所に入れられる。

彼の相談相手になる管理官がアリス。この二人のお話で進むはずなのだが、収容所で出会う男や、管理局の順番待ちの列で知り合った若者とのからみが、入れ替わり立ち替わり描かれるために、どこに視点をおくべきかと惑うのだ。

結局、手を変え品をかえ、不法滞在をしようとするサンバの奔走する姿が前面に押し出される展開だけが一貫している。

ラストは、アリスとサンバのハッピーエンドなのだが、では、中盤で絡んでくる男性はどうなるのということなのだ。

アリスを演じたシャーロット・ゲンズブールはやせっぽちでぎすぎすしていて、魅力がないし、サンバの周りの人物もそれほど個性が見えない。結局、つまらなかったという感想で終わってしまった。人間ドラマの演出力に弱さがあるのだろう。そう考えざるを得ないのですが。


「毛皮のヴィーナス」
ロマン・ポランスキー監督の変態性が思い切り表にでた怪作である。独特の繊細すぎる彼の感性なくしてはこれは映画になり得ない。だからこそ、彼の才能を証明するような作品だった。

映画が始まると、シンメトリーに左右に並不街路樹、カメラがそのを手前から向こうに進んでいき、とある劇場にとまると、ドアを開けて中に入る。中では舞台演出家で脚本家のトマが、次の舞台のオーディションを終えたところで、ろくな女優がこなかったと悪態をついている。そこへ飛び込んできたワンダという金髪の女、彼女はとうに終わってしまったオーディションのことはそっちのけで、強引にトマにオーディションを迫ってくる。

こうして物語が幕を開ける。今回の舞台は古いSM小説を題材にしたもので、いきなりセクシーな姿になるワンダに戸惑いながらも、いつのまにかオーディションを始めるトマ。

やがて、オーディションが、今回の舞台劇と重なり、ワンダが次第にトマを支配し始め、最後にはトマを彫像にくくりつけていずこかへ消えてしまう。カメラは暗転するトマの姿を引きで撮りながら、ドアが閉じ劇場の表にでてエンディング。

まるで一幕の舞台劇が終焉を迎えるような、現実ともフィクションとも、幻想とも呼べないような一瞬の物語を、時に支配されまいとするトマの抵抗、時にトマとワンダが入れ替わる演出、繰り返されるカメラのカットの連続で、不可思議なリズムを作り上げていく。

いったい、この出来事は、舞台の一場面だったのか、トマの頭の中の世界なのか、すべてが虚構の中に沈んだときに、「神はトマを支配するために女を送った」というテロップが流れる。つまり、やってきたワンダは今回の舞台劇の主演の女と同姓同名、つまり、彼女はトマが作り出した幻想でもあるかもしれない。

感性のみで描ききったロマン・ポランスキー、その常人離れした才能に思わず頭が下がってしまう、そんな映画だった。


バンクーバーの朝日」
時間とお金をかけて、それなりの芸達者を集めて、丁寧に作られた良質な作品、悪くいえば可もなく不可もない、クオリティの高い一本でした。面白味がないといえばそれまでかもしれませんが、石井祐也監督、まだこんな域にに入ってしまう段階ではないんじゃないかと思うとちょっと残念。

全体として、テンションが非常に低い、というか低レベルで最後まで引っ張っていく。もう少し高揚感を生み出すような起伏があっても良かったと思うのですが、主人公を演じた妻夫木聡をはじめ、ほとんど全員がうつむいているような演技に徹する。確かに、当時の日本人の立場は外国ではああだったと思うが、そのまま作品のムードにつないでしまうと、いくら出来映えが良くても、心に訴えかけてこないところがあるのである。

カナダに実在した野球人チームの話だから、当然、試合のシーンは盛り上がらないといけないが、そこの演出も控えめで、いったい、どこに観客の心を揺さぶるものを作ろうとしたのかわかりづらい。

舟を編む」で、様々な賞を取って、そういう使われ方をしてしまったとしか思えない小じんまりした秀作というイメージ、しかし、いい映画である。