くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「馬々と人間たち」「華氏451」

kurawan2014-12-27

「馬々と人間たち」
北欧のアイスランドからやってきた風変わりな映画、というふれこみにつられて見に行った。監督はベネディクト・エルリングソンという人である。

主人公はアイスランド馬と書かれているように、すべてのエピソードが馬の目のアップとそこに写る景色から始まる。

まず、真っ白な馬にこれから乗ろうとする一人の男。何とかその雌馬にのり、道を颯爽と駆ける。とにかく広大な緑の大地をかける姿が美しい。

途中で一人の女性とその家族の家に立ち寄り朝食を食べるが、その家の真っ黒な馬が柵を越えて、白い馬の元に。そして男が白い馬に乗って去ろうとするところへ後ろから交尾をする。

こうして、何ともコミカルなファーストシーンから映画が始まる。

家に帰った男は、白い馬を撃ち殺す。
黒い馬はしきたりで去勢されてしまう。

そして次のエピソードへ。
沖合に来た舟にウォッカを買うために馬に泳がせて船までいく男。純正アルコールを手に入れたために、飲んで死んでしまう。

また、道を二頭の馬をひいてかける男。途中に張られた鉄線を切りながら進むと、その鉄線を引いた男がトラクターで追いかけ、鉄線を切る際に馬が暴れて、目をけがする。

ラクターの男は馬と鉢合わせして崖から落ちて死んでしまう。

などなど、それぞれのエピソードは、一つの村の出来事としてお互いに絡み始め、どれもが馬を媒介にして展開。とにかく、あれよあれよと不思議な人間ドラマが進んでいく。

最後は、冒頭の馬の所有者の男女がSEXをし、恋が成就、それまでのエピソードが、一つにまとまっていく。

途中に、凍え死にそうになって、馬を殺して内蔵を出し、体に潜る話など、生活感にあふれるシーンも丁寧に挿入されている。

一風変わったドラマだが、馬が人間と一つになって、心を暖かくするような生の感動が伝わってくる。いい映画だと思います。


「華氏451」
死ぬまでにスクリーンで見たかった映画の一本。原作は大好きなSF作家レイ・ブラッドベリの傑作小説である。

カメラはニコラス・ローグ、35ミリフィルム時代ならではの映像が、作品のムードを否応なく増幅させていく。

映画は、一人の男が朝食を食べようとしている。そこへ一本の電話、「すぐに逃げて」。その声と同時にサイレンの音、男はリンゴをかじりながら部屋の外へでていく。

真っ赤な消防車に乗った隊員がこの家にやってきて、てきぱきと隠された本を見つけて、階下におろし、火炎放射器で焼いてしまう。このオープニングの秀逸さにまず引き込まれる。

かつて、火事の消火が本業だった消防士は、今では本を焼く仕事という痛烈なアイロニーの設定は、さすがブラッドベリの皮肉。それをさらに助長するように、なにもない草原に不気味に走り去るモノレール、殺伐として閑散とした町並みの風景、いったい人はどこにいるのだろうと思えるような統制された近未来のムードが、この作品のすべてを象徴するようである。

主人公モンターグは、優秀な消防士でまもなく昇進が控えているが、本を愛する一人の女性クラリスと出会う。妻リンダとうり二つの女性に次第に牽かれ、モンターグは本を手にするようになっていく。そして、リンダに密告されたモンターグは、隊長を火炎放射器で焼き殺し、消防隊を辞職し、クラリスがいっていた森の奥の書物人間の住む森へ行く。

そこには、自分の愛読書を記憶して次に伝える人々が住んでいた。

もともとトリュフォーは得意な映画監督ではないので、果たして、この作品の良さを理解しきったかどうか不安だが、ヨーロッパ映画ならではの近未来の世界と、全体主義への痛烈な批判を交えた演出は特筆に値する一本である。トリュフォー作品としても必見の一本だった気がします。