「私のように美しい娘」
男を手玉に取りながら、次々と自分の欲望をかなえていく悪女カミーユ・ブリス。彼女に興味を持った社会学者のブレピンは、彼女を刑務所に訪ね、その供述を本にするべくインタビューを続ける。
物語は、彼女が今まで出会ってきた男たちとの話をコミカルにリズミカルに描いていく。そのテンポが、背後の軽いタッチの音楽に乗ってスキップのように展開していく様がとっても楽しい。
やがて、彼女が逮捕された事件が間違いだという証拠を発見したブレピンは、彼女を釈放させ、懇ろになろうとした矢先、元夫に襲われ、諍いの中で彼女が夫を撃ち殺し、その罪を着せられ投獄される。
しかも、カミーユは、外で、ブレピンの弁護士と今度は懇ろになり、カミーユをもう一度逮捕させるべく画策した証拠を隠蔽されてしまう。まんまと彼女にはめられたと知ったブレピンが、華やかにテレビの前にたつカミーユを獄中から見ながらエンディングという、なんとも皮肉ったブラックコメディ。
最初にも書いたが、とにかくテンポが抜群によくて、カミーユの悪女ぶりがあまりにもあっけらかんと次々と男と関係していくので、あきれるほどに明るい。
最後の最後にひっくり返されるブレピンの表情が、なんともにんまりさせてしまうラストシーンのおもしろさ。楽しい一本だった。
「恋のエチュード」
約二十年ぶりの鑑賞となった。
ネストール・アルメンドロスの美しいカメラに彩られた、あまりにもピュアで古風なラブストーリー。最初に見たときも思ったが、とにかくまどろっこしい展開が、私のような短気ものにはつらい一本である。
物語はフランスにすむクロードという青年が、母の友達の娘でイギリスにすむアンを紹介され、イギリスに行くが、そこでアンは妹のミュリエルを彼に紹介する。こうして、クロードとアン、ミュリエルの三人の遠距離自由恋愛のストーリーが展開していくというもの。
とにかく、つかず離れず、別れたかと思えば次は妹、そしてまた姉、お互いが手紙のやりとりで進んでいくから、流れがまどろこしい。
純粋すぎる恋に対するフランソワ・トリュフォーの視点が、見事な色彩のカメラ映像でつづられるのだから、これはもうおとぎ話の世界である。
そして、15年間のお話の末に、姉アンは結核で死に、ミュリエルもクロードとの初夜の後、イギリスに戻り、別の男性と結婚をし、女の子を産む。
とにかく、暗転するフェードアウトがやたら多い作品のため、そのため緊張が飛んでしまい、眠気が繰り返される。しかし、こういうラブストーリーはフランソワ・トリュフォーの世界でもある。
「あこがれ」(フランソワ・トリュフォー版)
スカートを翻して颯爽と自転車を走らせる女性を写してタイトル、そして本編へと流れる。フランソワ・トリュフォーの実質デビュー作であるが、30年ぶりかで見直すことになった。
とにかく、映像がさわやかではつらつとしている。オープニングから、まるでそよ風が場内を吹き抜けるような爽快感。そして、そんな女性ベルナデッテをひたすら追っかけする悪ガキ5人。それは、ただからかうためだけのつもりなのだが、実は彼らがベルナデッテに対するあこがれであることにまだ幼すぎて気がつかない。
ベルナデッテが彼氏ジェラールとデートする姿にも、ただいたずら心で騒ぎ立てたり、驚かせたりする。それはある意味、嫉妬であるのかもしれない。
風のようなカメラワークは、若々しい女性のスカートの翻るシーン、軽やかな笑顔、なにもかもが初々しい映像である。そして、そんな彼女を追いかける悪ガキもまたほほえましいのだ。
やがて、登山にいくべくジェラールは3ヶ月の別れを言って旅立ち、頼りを待つベルナデッテに、いたずら心満点の絵はがきを送る悪ガキ。しかしその直後、ジェラールは山で死んでしまう。
20分あまりの短編だが、この若さあふれるような映像に誰もが魅了されたと思う。とってもいい一本だった。
「ピアニストを撃て」
フランソワ・トリュフォー初期のフィルムノワールである。軽快なテンポで展開するストーリーと背後の音楽の絶妙のバランスが、独特のムードを醸し出しているものの、ストーリーが荒すぎて、骨格が見えないままにラストシーンとなった。
確かに中編なので、そのあたり省略でいいのかもしれないが、ちょっと雑な気がしないわけでもない。
ピアノの鍵盤の裏が写されてタイトル。その後、夜の町を一人の男が、誰かに追われているのか必死で走っている。このカメラワーク、カメラアングルがなかなかムードづくりに貢献している。
途中、街灯でころび、助けてくれた男と話をして、また逃げ始めて、あるカフェに入る。そこではピアニストをしている弟がいる。かつて有名なピアニストだったということをわめき、そこへ二人組がやってきてまた逃げる。
どうやら、ピアニストを含めた四人が兄弟で、裏の仕事に関わったことがあるらしく、怪しい二人組に追いかけられている。
このピアニスト中心の話から、カフェで彼に好意を持つ女性レナとのラブストーリーが絡んできて、末の弟が誘拐されるところからクライマックス。
雪深い山奥にある兄弟の実家で銃撃戦、レナの死、そしてラストシーンへながれる。
時折、実験的なカメラワークや演出も施され、まさに、まだまだこれからという情熱が見え隠れする一本で、トリュフォー作品の中ではそれほどの傑作ではないかもしれないがおもしろい作品でした。