くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋にいのちを」「女の一生」「うるさい妹たち」「足にさわ

kurawan2015-01-26

「恋にいのちを」
増村保造監督作品でないとおそらくみないであろう普通の娯楽映画である。

一人の女が、胸の病が完治して退院するところから映画が始まる。

彼女には恋人の加納がいて、その男の勤める会社は、共産主義を糾弾する雑誌を出しているが、赤字続き。
その会社の社長は、軍隊時代の顔で資金を集めているが、実は香港の麻薬取引のボスとつながりがあり、日本での麻薬販売の片棒を担いでいる。

そのことを知った加納の父が殺され、加納が復讐をするという話で、特に際だった映像も、演出もない。平凡といえば平凡な一本だった。


女の一生」(増村保造監督版)
森本薫の名作戯曲を八住利雄が脚本にし、増村保造が監督した作品だが、さすがに女を描かせると見事なものである。

明治、大正、昭和と駆け抜ける一人の女けいの半生を、90分で描ききる脚本の見事さと演出の力量に頭が下がります。見事な映画でした。

タイトルが終わると、提灯が画面いっぱいに写り映画が始まる。日露戦争の戦勝祝いの提灯、画面が変わると一人の女が、鞭で打たれている。強烈なファーストシーンです。

打たれている女は主人公けい、父の兄夫婦に引き取られたが、女中のようにこき使われ、この日、とうとう追い出される。

たまたま勝手口があいていた家に忍び込んだことから、堤洋行という会社を経営する資産家の家に養女となって、けいの波乱の人生が始まる。

大正、昭和と、的確な映像展開で見せていく一人の女の人生は圧巻で、時の流れを描く演出が実にうまい。

堤洋行の女社長の跡を継いで、家を守るために非情になりながらも、彼女を引き入れてくれた堤家の次男栄二を愛する女の性もしっかり描く。

ラストシーン、第二次大戦が終わり、栄二が戻ってきて、一緒にいこうといわれるが、家に残ると廃墟になった家の庭で、うずくまるカットでエンディングだが、感動しか残っていないラストシーンである。

すばらしい一本だった。


「うるさい妹たち」
白坂依志夫脚本、増村保造監督のコンビだと、たいがい傑作が多いのですが、この映画は、ちょっと、取り留めのないお話になっていて、今一つまとまりがなく、正直、ものすごく長く感じてしまいました。

原作は五味庚祐で、六本木族なる当時はやった若者たちを描いた物語です。

オープニング、車を運転している副社長が、夜の道で一人の女純子を拾ったところ、仲間の若者たちも乗せることになるところから映画が始まる。この冒頭は見事なもので、一気に引き込まれるが、そのあと、この副社長の娘の話、純子の恋人の絵描きの健二の話、純子の姉の話、とあちこちに物語が飛び始めると、取り留めもなく展開し、まとまりがやや崩れてしまう。

結局、そのまま、どこへ行き着くというわけもなく終わる。

純子の姉の描き方が、前半と後半で正反対になり、それがかえって、純子たちの異様さを打ち消す結果になるために、映画の方向が見えないのである。

増村保造らしい映像表現も多々見られ、おもしろくなりそうな映画なのだが、視点がぶれてしまったのがちょっと残念な一本。

女の情念を描く増村らしい題材だと思ったのですが、その意味で、しんどかった。


「足にさわった女」(増村保造監督版)
増村保造監督作品としてはめずらしいコメディ。市川崑も映画化をした同じ原作によるものである。
さすがに、コメディは苦手なのか、いまひとつキレがないし、笑いのツボが外れている気もする。しかも、映画初出演のハナ肇が下手くそで見てられない。

映画は、網タイツの女性の足が画面いっぱいになってタイトル。そして、いきなり列車の中で一人の男が妄想のように、列車の中を歩く場面へ。このシュールな冒頭は面白いが、それは実は小説の内容で、物語は本編へ流れる。

本編に入ると、途端にリズムが滞ってきて、これが市川崑ならもっとうまく処理するだろうかと思わせる。

幼い頃に追い出された厚木の村に帰ってきた女スリの話だが、流石に時代性が感じられ、今となってはこの物語に新鮮味がないのも残念。

やはり、増村保造はコメディは苦手なのだろうかというのが感想でした。