くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「デッドハング」「ソロモンの偽証 前編・事件」

kurawan2015-03-12

「デッドハング」
未体験ゾーンの映画たちから、マルコム・マグダウェル出演に引かれて見に行きました。

可もなく不可もないというより、おもしろいわけでも、つまらないわけでもない一本で、退屈というより、ストーリーの展開が平坦すぎるし、それぞれの展開の理由付けが適当でリアリティがないし、抑揚もない映画だった。

映画は、まずとある企業の金庫のカットに続き、夜のロビーの外に止まった車の上に人が落ちてくるところから始まる。

カットが変わると、主人公ジェーンがキックボクシングの練習を彼氏としている。何ともわざとらしい説明シーン。彼女はキャリアウーマンで、翌日会社に行くと、同僚のマイクが自殺したという。冒頭のシーンである。

彼の机を整理していて見つけたメモリーに、会社の不正情報が入っているのを発見したジェーンは、上役に説明、そして一人の内部調査の人間という男フランクがやってくる。彼は、上層部から隠蔽工作を頼まれている男で、とにかく、突然殺し屋になるという陳腐な展開へ。そして、夜のビルの中で、ジェーンとフランクのバトル戦へ。

となるところが、ジェーンはエレベーターの中で防戦一方で、あまり頭の良くないフランクが、ただ、力だけで攻めてくる。このなんの工夫もない本編が実に面白味に欠ける。

まぁ、最後は、ジェーンが助かってハッピーエンド。オーナーのゴールト(これがマルコム・マクダゥエル)を告発するのも、さらっと描き、クライマックスで助けにくるエレベーター保守員の突然の登場からエピローグもとってつけたようで、エンディング。

期待はしていなかったとはいえ、感想を書きようがない一本だった。


「ソロモンの偽証 前編・事件」
文庫本六冊という長編の原作を読んでから臨んだのだが、なるほど、あの長編を前後編の映像にまとめるには、非常に的確と呼べる脚本になっている。

原作は、それぞれの人物の背景や、性格、心理状態をつぶさに描写してみせる前半部分が実におもしろいし、見事である。その反面、後半の裁判シーンの方がどちらかというと色あせて見えなくもないし、クライマックスは、なるほどと思わせるものの、ちょっと、息切れしているように見える。

しかし、今回の映像作品は、まだ後半を見ていないが、前半で、物語のエピソードの表面部分を積み重ねていくように映し出していく。そして、一つ一つの裏側はすべて覆い隠し、後半の裁判シーンでおそらくすべて明らかにしていくという組立をしたようである。

成島出監督作品らしい組立であり、娯楽映画として完成させるには最良だったと思う。

映画は大人になった主人公藤野涼子が、かつての母校を訪ね、校長にかつての事件を語るという回想形式をとる。そして、時がさかのぼり、クリスマスの朝、一人の少年が雪の中で発見されるという、原作のオープニングへとつなぐ。このあたり、原作の濃厚な描写をすべて排除し、あっさりと本題へ持ち込んでいく。

中学生をほとんどオーディションで集め、大人のキャストに芸達者をちりばめて、場面を引き締めるという作り方をしていく。その中でも主演を演じた藤野涼子の演技がピカイチに光る。彼女の存在がこの作品の最大のポイントだろう。

原作と違って、第一発見者に加わり、時に、自殺した少年の幻影に悩み、偽善者としての自分に悩み、自殺直前まで追い込まれる下りは、原作と若干違うキャラクターになっているが、これはこれで、小説と映像は別物としてとらえれば間違いではない。

彼女を取り囲む友人たちや、三宅樹里のキャラクターなどはかなり弱いが、そこは藤野涼子(芸名も役名も同じ)の迫力に引っ張られていく。

先生や校長をさらっと描き、学校内裁判に持ち込むまでを淡々とエピソードを積み重ねていく下りは、ある意味平坦だが、これがあって、後半のダイナミックなクライマックスへ持ち込むという意図なら、成功していると思います。

原作が訴える本当の真相を描き出す後半が楽しみです。