くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パプーシャの黒い瞳」

kurawan2015-04-23

とにかく、映像が目が覚めるほどに美しい。といってもモノクロなのですが、季節の一番美しい瞬間、自然の作り出す一瞬の美をとらえた画面がうっとりするほどに引き込まれるのである。監督はクシシュトフ・クラウゼで、彼の遺作である。

物語は1910年、ジプシーの一族に一人の女の子が産まれるところから始まる。彼女はプロニスワヴァア・ヴァイス、通称パプーシャというあだ名で呼ばれるようになる。

こうして、主人公の誕生シーンから幕を開けるが、画面は一気に1971年、どこかの講演会場の場面になり、次の瞬間1941年に移る。

物語はこうして、年代を前後させながら、戦争に翻弄される時代、戦後、ジプシーの放浪生活を規制される法律の制定の時代、パプーシャの結婚の時期、イエジ・フィツィツォスキという男性とのほのかな恋の物語、パプーシャの詩がイエジによって本となり、それがかえって、彼女の家庭が、ジプシーの集団から阻害されることになる。

1910年から1971年までの時間をパプーシャという一人のジプシーの女性の姿を通して、ジプシーと呼ばれる人々の生の姿、時代に翻弄されていく彼らの存在、そんな中で生きる女性のあり方などが叙事詩的に描かれる作品であるが、デジタルのシャープさとはいえ、画面は美しい。そして細かいカットをフェードイン、フェードアウトを繰り返していく詩的な演出も際だったものがある。

ストーリーにそれほど劇的な展開を作り出す演出も脚本構成もされていないので、全体には淡々としたイメージが漂うものの、ある意味壮大な歴史の一ページに見える物語は、ポーランドの歴史の一面をジプシー詩人で実在の女性を中心に、ジプシー一族という人々の視点から描いた点で、見事な一本だったと思います。

ラストは、広大に広がる雪原、それもまだらに土の模様が作り出す部分を画面の大半に配置し、右手隅をいくジプシーの馬車のシーン、彼方に広がる殺伐とした森のシーンでエンディング。

美しい。しかし、これがフィルムの美しさならもっとすばらしいのではなかったかと思える。いや、フィルムだったのか?いずれにせよ、見事な作品でした。