「愛情の決算」
戦後10年ほどしか経っていない時期に、描かれた作品としては、恐ろしいほどに先取りした物語である。
映画は楢崎が、その息子の誕生日に銀座で喫茶店に入っていて、母の勝子が別の店から出てくるところを目撃した場面に始まる。そして、息子は楢崎にカメラを買ってもらい、園夜、遅く帰った勝子の言い訳から、楢崎は、妻のただならぬ雰囲気を察する。
この冒頭のシーンで、楢崎と妻勝子の夫婦の破綻の物語であるとわかる。
物語は、ここから楢崎が戦場で過ごす場面にさかのぼり、そこから終戦、戦後の混乱から、勝子との結婚へと進むが、なにかにつけ、淡々と過ごす楢崎と対照的な情熱的な大平に曳かれ始める勝子。
大平と勝子の密会を息子が、何度かかいま見るという展開を挿入して、映画は、冒頭のシーンをクライマックスにして、勝子が一人家を出て列車に乗っていづこか、大平の元かどうか不明だが、その場面でエンディングになる。
いくら戦後とはいえ、まだまだ戦前の保守的な日本が残る世の中で、この題材と、丁寧にねっちり描く作風は、なかなかの一本である。なんと監督は主演の佐分利信がつとめているのも見所の一本だった。
「美しき母(うるわしきはは)」
いい映画でした。登場人物がみんなまっすぐで純粋、それだけでも気持ちのいい作品です。それに映画が妙に奇をてらったような凝った作りも見せず、美しい日本の景色をそのままとらえた叙情あふれる作り方もすがすがしい。監督は熊谷久虎である。
昔は、こういうきれいな気持ちになれる映画がたくさんあったと思う。こういう映画を今みんなが見れば、もっと世の中が良くなるんじゃないかとさえ思ってしまう。本当にきれいな作品でした。
映画は、気のいい父が、大棚をつぶしてしまって一文無しになり、母とその息子がかつての女中の家のある山奥の村に向かっている山道のシーンから始まる。
モノクロですが、美しい花が咲き乱れ、その山間を進む母と子供の姿にまず心曳かれる。
やがて、出迎えた女中喜代は、懐かしさを体全体で表し、二人を迎え、生活が始まる。頼りないが、まじめな女中の夫、ぼけているが、しっかりとした祖母、かつて日本の至る所にあった原風景がそこにある。
村の学校に通う息子の日出夫は、女工にでた母光代の雇い主の工場のむすこにいじめられるが、地元の年長の学生たちの集団海賊隊に助けられる。これもまたかつての原風景だ。
こうして、母と息子のたくましくいきる日々を丁寧に描いていくのが本編。夢を見るだけで気のいい父富太郎は、悪い奴にだまされるが、それもまた父の旧友たちに助けられ、やがて、日出夫の中学校合格の日にクライマックスを迎え、危篤だった父も快復し、戻ってくる。
父や母との思い出を回想する日出夫のナレーションでエンディングとなるが、なんか心の中が暖かくなる映画だった。癒されると同時に、家族、いや母親を大切にしないとと改めて感じってしまいました。こういうのも映画の役割じゃないかとさえ思える日本映画の秀作だった気がする一本でした。
「シグナル」
未体験ゾーンの映画たちに出てきそうなSF映画で、どうなるの?と追いかけていくうちに、次々と展開が変わってくるストーリーを楽しむ映画だった。監督はウイリアム・ユーバンクである。
子供がクレーンゲームをしているシーンから映画が始まる。その横を主人公ニックが通り過ぎる。彼は病気で、両足が弱っていくようで、松葉杖をついている。外には恋人のヘイリー、友人のジョナがいる。
三人はマサチューセッツ工科大学の学生で、自分たちのパソコンをハッキングしてくるノーマッドなる人物を追いかけている。
そしてたどり着いたのは、とある小屋、そのなかにニックとジョナが入るが、外にいたヘイリーの悲鳴に飛び出し、暗闇のなかに、何かが飛び去ったと思った瞬間、気を失う。目覚めるとニックは車椅子で、足の感覚がない。目に前に宇宙服のようなものを着た男がいる。
何が起こったかわからないままに、ストーリーを追っていくと、ニックの両足は機械のようになっていて、ヘイリーもベッドに寝かされている。よくわからないが、逃げる必要を感じたニックは必死で逃げようとする。
シャープな映像とクールな構図で、冷たい感じを演出した画面が逆に不気味である。
建物の外に出ると、広がる大地で、うまく逃げたジョナと三人の逃避行が後半になる。執拗に追いかけてくる宇宙服の男。そして、途中でジョナは死に、境界の渓谷まで来るが、ヘイリーも取り戻される。
ニックは満身の力で走り、渓谷に架かる橋を駆け抜け、スクリーンを破るとそこにはメカニカルな空間、追いかけてきたデイモンなる宇宙服の男こそが
ノーマッドであるとわかり、ヘルメットを取ると顔半分が人間で、あとは機械だとわかる。
カメラが引いていくと、すべての世界は巨大なマザーシップの一部だと真相が見えてエンディング。なるほどそういうことかというラストシーンです。
なかなか面白い一本でしたが、シュールさがSFの玄人好み的な部分があり、映画としての面白さよりSFストーリーの奇抜さで見せる感じの映画でした。でも、映像は美しかった。