「イニシエーション・ラブ」
必ず二度見るというキャッチフレーズで、鳴り物入りで登場した傑作ミステリー原作の一本、監督は堤幸彦。
予想していたほど仰天するラストではなかったものの、かなりおもしろかった。明らかに堤幸彦の演出のうまさと、前田敦子のキャラクターの存在感、演技力のたまものだと思う。最近ではダントツの傑作エンターテインメントでした。
映画は、sideAとして、いかにももてなさそうな太っちょの大学生鈴木夕樹が合コンの人数合わせに呼び出されるところから始まる。そこで、一人の女性成丘繭子と出会う。なぜか急速に接近する二人という、よくある純愛ストーリーで幕を開ける。マユは夕樹をタクと読めることからたっくんとよぶ。
1980年代、まさにバブル全盛期のレトロな音楽と小道具満載の中、二人のラブストーリーがどんどん進む。
クリスマスにはたっくんは、ルビーの指輪をマユにプレゼント。実は合コンの時にしていた指輪をなくしたといわれたっくんが買ったのだ。実は、後にわかるが、最初にしていたのは、別の彼氏たっくんからもらったものだったが、別れたので、送り返してなくなったのである。
そして、たっくんと呼ばれる恋人とマユの物語は、やがて、たっくんがマユのためにスリムになるべくがんばっている風のランニングシーンへと転換、sideBとなり、いかにもかっこよくなったたっくんの姿へ。
もちろん、このすりむなたっくんはマユとつきあっているが、東京転勤が決まり、二人は遠距離恋愛へと流れる。そして、東京でたっくんは新しい彼女委美弥子ができ、二股状態になる。しかも、マユは妊娠し、それを堕胎刷るエピソードも挿入。
そして、おもわずマユの部屋で美弥子の名前を口にしてしまい、二人は別れ、すりむなたっくんはクリスマスの日、美弥子の両親と食事をする。ところが、この日、マユのために予約していたホテルのことが気になり、マユが待っているかもしれないと、あわてて飛び出すスリムなたっくん。
やがて、やがてホテルの前についたすりむなたっくんは、そこにマユを発見。ところが、駆け寄るときにふとっちょのたっくんとぶつかる。すりむたっくんは鈴木辰也、ふとっちょは鈴木夕樹、つまり二人を二股していたのはマユ立ったというエンディング。
ある意味、それほどの真相というわけではないのだが、前田敦子のキャラクターが見事にストーリーを引き立たせた。それに、堤幸彦がいつものようなおふざけ演出を完全に封じ、しっかりと、ミステリーとして演出した結果、極上の謎解き作品に仕上がった。
年号が次々と画面に登場するが、それほど必死で追いかけなくても、だいたい流れはつかめるし、ラストで、すべてが一本の線につながる爽快感は損なわれていないのがいい。
それほど期待していなかったが、期待以上の出来映えだった。おもしろかった。
「東京オリンピック」
本来、記録映画は見ないのだが、この作品は別格、市川崑監督の記録映画の傑作として、以前から見たかった一本を見る。
その姿勢から「芸術作品か記録作品か」という論争を生み出した名作である。
なんといってもすばらしいのが、そのカメラである。
オープニングの巨大な太陽、聖火リレーの時の富士山をとらえた遠景ショット、スローモーションから、大胆な俯瞰、ハイスピードでとらえる競技の映像、超望遠カメラで、街頭の人々だけに焦点を合わせて、走り去る自転車を透明に見せる演出、背後の風景を暗闇にしたローキーの露出で、体操選手を浮かび上がらせる構図、ストップモーション、ここまで映像づくりをすると、もうドキュメンタリーというより、映像芸術である。
いうまでもなく、1964年の東京オリンピックの記録映画だが、徹底された脚本に基づいた展開の中で描かれる現実の競技の行方は、一方で、非現実であり一方でドラマティックである。
オリンピックを記録した作品で論議を呼んだのはレニ・リーフェンシュタールの「美の祭典」「民族の祭典」がある。あれもまた映像としてすばらしいが、今回の「東京オリンピック」はまた、一つの到達店に見えてしまう傑作だった。
念願かなっての一本、待ち望んでいただけのことはあった。