くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヴィンセントが教えてくれたこと」「ボーイ・ソプラノ」

kurawan2015-09-11

「ヴィンセントが教えてくれたこと」
これは思いの外良かった。というか、相当な傑作でした。めちゃくちゃ良かったです。
物語は、転校していじめられている少年オリバーとちょいワルジジイのヴィンセントとの心の交流を描くありきたりのハートフルコメディなのですが、周辺の散りばめられたエピソードが抜群に良いし、周囲のキャラクターの存在もとっても素敵なのです。しかも、主演のビル・マーレイが物凄くいい。この作品で、ゴールデングローブ賞にノミネートされているのも納得します。監督はセオドア・メルフィという人です。

映画は、いかにもだらしなくて酒に溺れ、ギャンブルもし、罵声を浴びせながら嫌われ者のヴィンセントのシーンから始まる。そこにタイトルが被り、一台のトラックがヴィンセントの家の前の垣根を壊し、柵を踏み潰すところから物語へ。このトラックは隣に越してきたマギーと息子のオリバーの引越しトラック。例によって悪態を吐くヴィンセントだが、学校ではいじめられて帰ったオリバーが、家の鍵も取られてヴィンセントの家に転がり込んだところから、妙な付き合いが始まる。

と、通常の展開なのですが、カメラがとっても素敵に動くし、音楽のセンスといい映像が踊っているように展開していく演出が素晴らしい。
さらに、ヴィンセントにはお気に入りの娼婦だかがいるが、彼女は妊娠している。どうやらヴィンセントの子どもらしいのだが、はっきり言わない流れもまたいい。このダカを演じたナオミ・ワッツもとっても良い。

さらにヴィンセントには、療養所に、愛する妻サンディがいて、8年間も洗濯物を取りに通っているというエピソードもまた微笑ましいほどにあったかい。

オリバーに喧嘩を教え、ギャンブルに連れ出し、バーに連れて行くどうしようもない男だが、オリバーはヴィンセントには、裏にある本当の姿を見つけ始める。

学校では短な聖人を発表するというイベントがあり、そこで、ヴィンセントを紹介するのがクライマックスになるが、それに先立って、ヴィンセントが脳卒中で倒れたり、マギーの夫がオリバーの親権を訴えたりと俗っぽい展開もあるが、細かく突っ込まず、皆、いい人として描いていく演出も素晴らしく素敵。

そして、ダカに子どもが生まれ、悪態をつきながらもやや不自由な体で歌を歌うヴィンセントのシーンにエンドクレジットが流れてエンディング。

もうラストは胸がたまらなく熱くなるし、とにかく拍手したくなるほどに素晴らしいのです。こういういい映画に出会うから映画ファンはやめられません。本当に良かった。


ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」
ダスティン・ホフマンが共演ということもあって、もうちょっと期待したのですが、意外にも普通の映画でした。いや、眠くならなかったのだから良い映画だったのかもしれません。監督はフランソワ・ジラールです。

母親と二人きりで下町に暮らすステットは、ご多聞にもれず、学校では問題ばかり。しかし彼の歌の才能を見抜いている校長先生が、アメリカ一の少年合唱団を招き、その指揮者であるカーベルに彼を引き合わそうとする。しかし、いざとなって、ステットは逃げ出してしまう。

彼には、父がいて、実はステットのことを認めているが、遊びでできた子どもということで妻には内緒にしている。

ある日、母が事故で亡くなり一人ぼっちになったステットに父ジェラルドが現れる。そして、裏口入学でカービルのいる音楽学校へステットを入れる。という展開。

よくある話でなんの変哲もないのだが、ステットのキャラクターが非常に弱い。そのため、悪童ぶりが目立たない上にどう見ても普通の男の子に見えるのです。

さらに、音楽学校での例によってのいじめの展開や、それを保護して晴れの舞台にステットを導く下りも弱いために、ストーリーが平坦に進んでしまう。これが意図したものなら良いと思いますが、そうは見えないのです。

ダスティン ・ホフマン、キャシー・ベイツなど名優を脇に置いたために安心してしまったのか、演出がちょっと弱い気がします。

あとはラストシーン、来るべくして声変わりをしたステットをのところに、父が妻に全てを打ち明けて迎えにきてエンディング。優しい映画ですが、ちょっと作品としては平凡な出来栄えに思えます。ストーリーに一工夫あればなぁ。私だけですかね。