シリアスな映画を見たくて見に行ったのですが、期待通り、丁寧な画面作りと演出、重厚なストーリー展開は十分満足できるものでした。ただ、主人公ゲオルク・エルザーがいかにナチスを憎み、ヒトラー暗殺に至ったかの心の変化は、いまひとつ伝わらなかったのがちょっと残念です。監督はオリバー・ヒルシュビーゲルです。
一人の男ゲオルクが酒場の壁に作った穴にダイナマイトを仕掛け、起爆装置をセットしているシーンから映画が始まる。長時間の作業だったらしく、膝が立たないほどに疲れるも、ようやくたちあがる。そして、スイスとの国境のフェンスを破ろうとするが、そこでドイツ軍兵士に捕まる。ポケットからは爆弾の設計図やらが出てくる。
場面は変わり、ミュンヘンのビアホール。今からヒトラーの演説が始まろうとしている。そして、大群衆の中に始まる演説。一方でドイツ兵に取り調べられるゲオルク。そして投獄。時計をじっと見つめるゲオルクのシーン。俯瞰で夜のミュンヘンの街。彼方で爆発が起こる。ここまでが実にうまい。
そして、ゲオルクに知らされたのは、ミュンヘンでの爆発で死傷者が出たこと、そしてヒトラーは13分前に帰ったので無事だということである。
こうして、ゲオルクは国家安全局のネーベとゲシュタポのミュラーに取り調べを受けることとなる。こうして物語は本編へ流れる。
冒頭から、非常に丁寧な演出で、登場人物を描写し、そのあとも、ただのよくある、ナチスはむちゃくちゃで、非道そのものというありきたりの描写はしない。ネーベもミューラーも極めて正当にゲオルクを調べて、真実を導き出していく。その過程で、ゲオルクがいかに爆弾を作るに至ったかをフラッシュバックで繰り返し挿入する。
ゲオルク一人の犯行というネーベらの報告にもかかわらず、上層部は、その背後組織を聞き出せとつっかえすばかり。その度に、仕方なく拷問を繰り返す。しかし、最後の最後、ゲオルク一人であるということに結論付けて、ネーベもミューラーも報告。そして5年が経つ。
折しも、ネーベは反逆罪で処刑され、特殊収容所でゲオルクは存命だったが、ミューラーはかれを極秘に処刑するように命じる。時は1945年、ドイツの敗戦は目の前だった。ゲオルクは、銃殺される場面で暗転エンディング。
実話ゆえ、崩せない制約もあるのだが、非常に真面目な人間ドラマとして描かれているのは見事なものである。後半が若干だれてくるのだが、画面作りも美しいし、しっかりと史実を伝える姿勢が好感の一本でした。