くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パリ3区の遺産相続人」「思ひ出」「感傷的な運命」

kurawan2015-12-04

「パリ3区の遺産相続人」
ちょっと小洒落たヒューマンストーリーという感じで、決して傑作とかではないが、不思議と心に残る映画でした。監督はイスラエルホロヴィッツです。

一人の男マティアスがパリのとあるアパートへやってくる。父が残した遺産を相続するためにやってきたのである。ところが足を踏み入れると一人の老婆が住んでいた。彼女の名はマティルド、ヴィアジェと呼ばれる契約で、マティアスの父と契約しているのだという。ヴィアジェとは売主が物件を売却しても住み続けることができる制度で、その代わり買主は死ぬまで売主にローンのように年金のような金額を払い続けるというものである。

しかも、マティルドには娘クロエがいた。

頭を悩ますマティアスは、マティルドと話しているうちに、亡き父とマティルドとの関係が見えてくるにつけ、様々な憶測と、人の運命の行き違いが見えてくる。

マティアスの父はマティルドと付き合っていた。というか不倫関係にあり、果たして、クロエの父は、マティアスの父ではないかという疑問さえ持ち上がる。一方で、マティアスとクロエは、さりげなく接近していくのだから、これもちょっと切ない。

ランプなどの調度品を効果的に配置した構図が美しいし、パリの郊外の景色、裏庭が広がる高級アパートの佇まいもいい感じで映画を盛り上げる。

下手をすると、ドロドロの愛憎劇になるところが、名優たちのあっさりした演技で、とっても上品な仕上がりになっています。

結局、マティアスとクロエは兄弟ではないことが判明、抱き合ってキスをしてエンディング。ストレートな物語ですが、どこか深みのあるヒューマンドラマといういでたちがとっても心地よい映画でした。


「思ひ出」
エルンスト・ルビッチ監督のサイレント時代の隠れた名作と言われる一本。

とある王国の若き皇太子と、街の娘の叶わぬ恋の悲恋物語で、よくあるといえばよくあるのですが、非常に丁寧な筆致で描くストーリー展開は、コメディ作品とは一味違った面白さを見せてくれます。

まだ幼年の皇太子カールが王室に戻ってくるシーンに始まり、気さくな家庭教師との出会い、青年時代、ハイデルベルクへ行き、そこの学生たちとの戯れから、町娘との出会い、恋、そして、父の死によって、公務につくことになることからの別れ、そして、久しぶりにハイデルベルクに戻ったもののすべてが変わっている。まさに青春の一ページの終焉を切なく締めくくる物語は、本当にキュンとなってしまいます。

サイレントらしいリズムをかねえ備えたちょっとした名編であった気がします。


「感傷的な運命」
とにかく画面の透明感が半端ではない。3時間の作品なのに長さを感じさせない。流れるようなカメラワークと上品な色彩演出も素晴らしい。これはオリビエ・アサイヤス監督のまぎれもない代表作の一本と呼べる大河ドラマの秀作でした。

映画は、葬儀の場面から始まる。いかにも質素なのは場所がエジプトであり、故人の希望ゆえだと語られる。故人の娘ポーリーヌは、酒造業を営む叔父の元にやってくる。こうして、壮大な物語が始まる。

時間の流れがとってもスピーディで、かつ展開が早く、その流れを流麗で華麗なアサイヤス独特の長回しで描いていく。しかも、屋外シーンが半端なく明るくてみずみずしいので、気持ちが荒んで行かない。

物語には、波乱の展開もないわけではないが、アメリカ映画のような仰々しい展開にならず、あくまで、時間の流れ、人生の一ページのごとく淡々と挿入されるから、気持ちが内に沈むことがない。

ジャンは、ナタリーという妻がいたが反りが合わず離婚、やがて、ポーリーヌと結婚、程なくして、陶磁器の会社の経営を任され、物語は本筋へ入っていく。

芸術的な才能もあったジャンは次々と美しい陶器を作り出して会社を大きくしていく。しかし、時は戦争から世界恐慌へと激動の時代を通り、労働争議なども起こり始める。しかし、持ち前の情熱と、ポーリーヌの愛情に支えられ、安定した人生が送られる。もちろん、ナタリーやその娘のエピソードなど、周辺の人物もしっかり描かれ、物語に深みを与えていく。

やがて、ジャンもポーリーヌも高齢となり、ジャンは、ふとした事故で、かつての結核の持病が再発し寝たきりに。ポーリーヌはジャンの分をカバーし、ジャンが開発していた象牙色の陶器も完成させ、利益を無視して、船会社に納入、ジャンの夢を叶える。

間も無く命を終えようとするジャンの傍に寄り添うポーリーヌ。二人の脳裏には、かつて若き日の様々な思い出がよぎっていた。暗転エンディング。

冒頭の舞踏会のシーンも、非常にテンポ良くて、退屈させないし、その後の流れも、淀むことなく、展開していく。登場人物に極端な悪人が出てこないのも、作品を明るく見やすくしたのかもしれない。

長い作品なので、やめようと思ったが、勧められて見て正解でした。素晴らしい一本でした。