くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「マイ・ファニー・レディ」「独裁者と小さな孫」

kurawan2015-12-24

「マイ・ファニー・レディ」
とにかく、終盤に向けてどんどん楽しくなってくる。ピーター・ボグダノヴィッチ監督の久しぶりの作品は、エルンスト・ルビッチのラブコメディを思わせる軽快で洒落た作品でした。

かつてコールガールをしていたハリウッドスターのイジーが、インタビューを受けているシーンから映画が始まる。そして語られるのは、彼女がスターになるきっかけになった頃の一人の演出家アーノルドとの出会いだった。

有名な演出家のアーノルドは、デレクという妻がいるのだが、一人でホテルに泊まり、コールガールを呼んでいる。いつもの店から来たのはイジーという女性。アーノルドはイジーと食事をしベッドインした後、300万ドルあげるから今の仕事から足を洗いなさいという。例え話に「リスに胡桃をやることと胡桃にリスをやる」というエルンスト・ルビッチの映画から引用するセリフが最後に生きてくる。

ジーは女優になる夢を叶えるためオーディションに行くが、そこでアーノルドと再会、しかも、イジーの過去を知る人々も絡んでくる。

ジーに真摯に迫ってくる脚本家のジョシュア、年甲斐もなくイジーに夢中になっているジョシュアの父の判事。さらに精神科医でイジーの担当医でもあるジョシュアの恋人ジェーン、そこへ、アーノルドの妻デルタも絡んでくるし、デルタにご執心の人気俳優セスなど、複雑に絡み合いながらも、どこかコミカルな人間関係が、機関銃のようなセリフを交えて右往左往するストーリー展開は、ひたすら楽しい。

一見、ドロドロドラマの筈が、キャラクターがそれぞれドライで、感情をストレートにぶつけてくるので、じめっとならないし、ピーター・ボグダノヴィッチのファンタジックな演出が、映画としての夢を作り出すから、微笑ましく見てしまうのです。

一種、大人のラブファンタジーのような様相で、ラストはそれぞれのところに収まり、ハッピーエンド。イジーは最初の舞台で映画会社の社長の目にとまり、映画女優となる。そしてインタビューを終えたところに、なんとクエンティン・タランティーノが現れ、彼女を撮影現場へ連れ去って暗転エンディング。

ピーター・ボグダノヴィッチの久しぶりのノスタルジックな雰囲気満載の一本で、終始、楽しむことができました。


「独裁者と小さな孫」
もう少し、ファンタジックな空気もあるのかと思ったが、かなりシリアスな作品でした。監督はモフセン・マフマルバフです。

映画は、大通りにきらびやかな電飾が施された町のシーンから始まります。そして画面は、この国の独裁者と彼に抱かれている孫のカットへ。反抗者は情け容赦なく処刑する独裁者は、電話一本で町中の電気が消せると、孫と戯れますが、突然、町の明かりが戻らず、不穏な空気が。そして翌朝、家族は海外に避難するも独裁者と孫は残る。

国内にはクーデターが起こり、独裁者は命の危険を察知、孫と逃亡を始める。

物語は二人の逃亡劇が中心で、例によって、国のすみずみで苦しんでいる国民の姿を目の当たりにする。

旅芸人になったり、カカシになったり、罪人になったりしながら逃亡。かつての恋人のところへ立ち寄るも追い出され、とうとう二人は見つかる。

人々は二人の処刑を求めるが、一人の男が、負の連鎖を繰り返しても仕方ないから、二人を踊らせようと提案。浜辺で踊る独裁者と孫のシーンでエンディング。

反戦を訴えるストレートな作品で、ビシッと決まった画面の構図は、監督の力量をうかがわせるし、単純な話の中に挿入される悲惨なエピソードの数々も、絶妙の抑揚を生み出す。

ラストは、どう締めくくろうか、という思案の末に仕上がった感じがしないわけではないけれど、映画としてはクオリティの高い一本だったと思います。