くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「クリード チャンプを継ぐ男」「ひつじ村の兄弟」

kurawan2015-12-28

クリード チャンプを継ぐ男
「ロッキー」の亜流作品として、もっと適当な映画かと思っていたら、とんでもない。しっかりと作られた人間ドラマとしての様相も持つ秀作でした。監督はライアン・クーグラーです。

映画が始まると1998年、ある少年院の施設。いきなり暴れ出した少年は、かつてロッキーと対戦したチャンピオンアポロ・グリードの息子アドニス。この導入部のキレが抜群にいい。この映画の特徴は、寄りで捉えるカメラワークのうまさである。常に、役者の表情をしっかり捉え、人間ドラマを確実にスクリーンに作り出していく。それはボクシング場面でも同様で、確かにファイティングシーンで激しい映像なのだが、カメラは人物の顔を捉えて離さないのである。

時が経って2015年、メキシコで素人ボクシングで暴れる青年になったアドニスの姿。昼は、サラリーマンとしても優秀な彼だが、ふとした思いで、会社を辞めボクシングをする決心をする。というのは、少年時代、彼を引き取ってくれた女性でアポロの妻だった彼女が、自分の本当の父は生まれる前に死んだチャンピオンアポロだといったことが未だに忘れられなかったからである。

そして、アドニスはボクサーとして生きるべくフィラデルフフィアにやってきて、ロッキーの店に立ち寄る。こうして物語は本編へ流れる。

ところどころに取り入れられるアルファベットや店のロゴ、さりげないポスターなどに、ロッキーシリーズへのオマージュを含ませるカメラも素晴らしいし、役者に寄るアングルから、スローモーション、カット切り返し、回転などを利用したカメラリズムも素晴らしいのだ。

そして、地元のボクサーと闘い勝利したアドニスは、アポロの息子だとばれたため、興行を狙った世界チャンピオンコンランのマネージャーの目に止まり、コンランとの試合へと進んでいく。

当然、クライマックスは、アドニス対コンランの試合となる。一方でロッキーにはリンパ節の癌が見つかり、治療するというエピソードも挿入される。
試合シーンも見事なカメラで描ききり、最終ラウンドで、コンランをノックアウトするが、カウント終了間際でゴングがなり、結局、アドニスは判定負け。しかしながら、大観衆に迎えられ、物語は終焉する。

何度も書くが、とにかく、カメラがうまいのと、アドニスとロッキーの対比的なキャラクター描写もうまい。「ロッキー」へのオマージュはさりげなくかわし、それでいてファンを捉えてはなさい画像を多用、しっかりとした人物描写を手抜きせずにラストシーンへ持ちかけて、ただのお涙シーンで閉めなかった脚本も見事な一本。これは出色の映画だった気がします。本当に良かった。


ひつじ村の兄弟
カンヌ映画祭ある視点部門グランプリ受賞の話題作。アイスランドの映画で監督はグリームル・ハウコーナルソンという人です。

広がる草原のショットから映画が始まる。一人の男グミーはこの地で羊を飼育している。隣の家には兄のキディが住んでいるが、40年口を聞いたこともない。用のある時は犬に手紙を託して届けるという毎日である。

この日、羊の品評会があり、キディの羊が優勝する。しかし、様子がおかしいことに気がついたグミーが見るとどうやら伝染病にかかっているらしいとわかる。当然、地元の獣医局がこの地域全域の消毒と殺傷処分を指示。キディは自分の小屋から出たことで、落ち込み、孤独になり、酒に浸る。

各小屋はその処分を行うが、グミーは先祖から受け継いできた純血種を守りたくて、地下室に羊を匿う。それをキディが気づくことになり、今まで二人にあった深い溝が秘密の共有で次第に埋まってくる。

ところが、ふとしたことで、かくまっていることが獣医局にばれ、グミーとキディは火山の近くの山に羊を避難させるべく、村を脱出。程なくして吹雪に見舞われ、グミーは意識を失い倒れてしまう。キディは雪の中に穴を掘り、気を失ったグミーを裸にし、自らも裸になり抱きよせる。二人の溝は、いつの間にか埋まっていた。そしてエンディングなのだが、かなり唐突である。正直、連れて行った羊の行方も、グミーが助かったのかも不明のままの暗転である。しかし、広がる草原から冬景色をバックにした、二人の兄弟の物語は、一風変わったヒューマンドラマの様相であり、介して存在する羊が、不思議な色合いを物語に与えてくれる。このオリジナリティの面白さ、寓話的な様相が評価されたのだろう。面白い一本でした。