くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「母と暮せば」

kurawan2016-01-04

明らかに、井上ひさし原作黒木和雄監督の傑作「父と暮せば」をモチーフにした作品である。舞台を長崎に移し、父と娘ではなく母と息子に入れ替えている。この内容を見ただけでもげんなりするので、見に行くつもりはなかった。それほどファンでもない山田洋次監督作品でもあった。しかし、これという見たい映画もなく、どうこういっても今の日本映画の監督で第一線の人ということで見に行ったのです。

結論から言うと、さすがに、「父と暮せば」がいかに傑作かを再認識させるだけになってしまった。もちろん、比べる必要はないし、これはこれで白紙で見たのですが、ストーリーテリングが良くない。根幹になる話は、原爆で息子を亡くした母の悲哀で始まる導入部が、いつの間にか息子とその許嫁の悲恋話に流れる。しかも繰り返し繰り返し幽霊であることをそのままに現れる息子とその母の会話が、淡々としすぎる。そしてラストは、結局、母は死んでしまい、息子に連れられて黄泉の国へ旅立つという映像表現。ここまでくどくどと映像にしてしまうと、あまりにも安っぽい。山田洋次監督ならもっと見事な演出ができるだろうにと思うのですが。

映画は、長崎に原爆が落とされる日に始まり、それから三年後に幽霊として母の前に息子が現れる。あとは、淡々と、物語が展開。母の周りに近づく気のいい叔父であったり、息子の許嫁がとってもいい学校の先生になっていたり。だが、それ以外はほとんどキャラクターが引き立ってこない。いや、この主要人物もあまりキャラクターが際立たない。

確かに、画面の構図はさすがにしっかりと決まっている。何度も入り江を見下ろすような俯瞰で繰り返すストーリ展開は面白いのですが、どうも、何を基調に見ていったらいいかわからないので、ラスト、親子が消えていって、葬儀のシーン、さらにエンドクレジットの真っ白な合唱団の場面となると、まいってしまうのです。

ヒットしてるし、近年の吉永小百合映画の中ではまぁまぁだという感想を聞いて出かけたけれど、ちょっと期待しすぎた感じですね。いや、山田洋次監督ならもっといい映画を撮れるだろうにと思うと残念なのです。