くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「愛しき人生のつくりかた」「俳優 亀岡拓次」

kurawan2016-02-02

「愛しき人生のつくりかた」
散りばめられた洒落たユーモアの数々と、恋、人生賛歌が織り込まれたフランス映画らしい秀作、とっても素敵な映画でした。監督はジャン=ポール・ルーヴです。

映画は、葬儀を執り行っている墓地に始まる。パリに暮らすマドレーヌはクリスマスを前に夫に先立たれたのである。一方、カットが変わって、その墓地に駆けていく青年の姿、彼はマドレーヌの孫ロマンである。

葬儀もようやくおわったところへ、墓地を間違えて、遅れてロマンが到着する。洒落たオープニングから幕をあけるのの作品、トリュフォーへのオマージュが随所に見られ、カメラアングルや、映像演出に、どこか懐かしさを覚えてしまうが、とにかく、物語がとっても洒落ている。

ロマンは、ホテルの夜勤のバイトが決まり、一人になった寂しいマドレーヌのところに出かけては祖母をねぎらう。人の良い息子がミシェルは郵便局を定年退職し、しっかり者で優しい妻とふたりになるが、妻は夫が無気力にならないように細かな気遣いをして夫を影に励ましている。

ひとりにしておけない母マドレーヌをミシェルは老人ホームに入れるが、マドレーヌは、無断で脱走してしまう。

祖母を探すロマンが立ち寄る雑貨屋の主人のチョコバーを売るくだりや、ミシェルと妻が食事に入って、注文の決断を下せない夫に業をにやす妻の姿、あるいは、祖母をエトルタの街で見つけたロマンが老人ホームで見かけた絵の画家を訪ねるくだりなど、ところどころに挿入されるユーモアがとっても優しくてたのしい。

マドレーヌは、昔通った小学校に立ち寄り、その経緯を聞いたロマンはその学校を訪ね、その学校の教師に一目惚れ、祖母は1日学校で授業を受けるが、その後ホテルに戻り倒れてしまう。

そして、ロマンは、意識の無いマドレーヌの傍で旅行ガイドを読みながら二人で旅行をしようと語りかける。やがて生命維持装置の信号がなくなり、マドレーヌは死ぬ。

マドレーヌの葬儀の場に駆けつける一人の女性の姿と、葬儀を行うロマンたち。冒頭と似たシーンの繰り返し。しばらく絵を描くのをやめていた画家は、マドレーヌたちに褒められて再び絵筆を取り、ロマンに絵をプレゼント。遅れてやって来た女性は、ロマンが一目惚れした小学校の先生で、二人は寄り添い、秋の木々の向こうに歩いて去る。二人のキスシーンを遠景で捉えてエンディング。

うん、素敵だね。人生って素晴らしい。妻に離婚を申し告げられたミシェルが、チョコバーの雑貨屋の主人にアドバイスを聞きによるくだりや、その後、過去に戻って妻に告げる一言も素敵。マドレーヌを探しに車を駆るロマンの姿を遠景で捉えるシーンも、とってもロマンティック。全体に、人生賛歌、恋の素晴らしさが散りばめられている感じです。とってもいい映画でした。


「俳優 亀岡拓次」
現実と幻想、劇中舞台と、撮影シーンなどが繰り返される映像がとにかくたのしい。それに、淡々と演じる安田顕扮する主人公亀岡拓次の存在感、物語にさりげなく関わってくる一目惚れした安曇への淡いラブストーリーも素敵。本当に、終わってほしく無いほどの魅力的な映画でした。監督は横浜聡子です。

何かの映画の撮影シーン、一人の男が駆け抜けて殺される場面。くどすぎるという監督の一声と、亀岡拓次に手本を依頼するシーンから始まる。そして、ベテランの脇役亀岡拓次が今日も、見事な演技を見せて、監督に一目置かれている。

主役では決して無いが、経験と勘の鋭さで重宝される脇役専門の役者亀岡拓次。撮影の後、一人酒を飲む毎日だが、最近ふと寂しさを覚えることが増えてきた。

そんな中、外国の有名監督のオーディションを受けたり、今まで受けなかった舞台の仕事を受け、憧れの女優と共演したりと、役者意識も十分。

そんな彼が、ある日、撮影の後立ち寄った居酒屋で、安曇という女性と知り合い、一目惚れしてしまう。居酒屋の主人の娘の彼女は、どこか落ち着きとユーモアと優しさを兼ね備えている。今まで独身を貫いてきた彼に芽生えた淡い恋。このさりげないエピソードを様々な撮影シーンや、幻覚が周辺を飾りながら物語が進むのがなんともたのしい。

終盤、意を決して花束を持って告白に行った亀岡拓次に、実は安曇には子供がいて、離婚した夫とやり直す決心をしたことを聞かされ、失恋。

外国の監督の撮影に行き、砂漠を延々と歩いた後監督に褒められ、いずこかへ歩いて行ってエンディング。不思議な映画といえば不思議な映画がですが、とにかく楽しいのです。それだけで十分見ごたえがあった一本でした。