くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「億万長者」「黒猫・白猫」

kurawan2016-02-09

「億万長者」
配給会社がラストを勝手にカットしたので、市川崑監督が監督名をフィルムから削除したという一本。とにかく、面白い。めまぐるしく変わっていく当時の日本を風刺したブラックコメディです。

映画はいきなり、戦後の新しい名所を皮肉交じりに紹介していく。新橋、小菅刑務所、赤坂の料亭、などなど、ワンシークエンスで次々と見せてタイトル。建物の壁の形に合わせたロゴ、まさに市川崑の世界。監督名は、後から無理につけたような挿入があって物語が始まる。

くそまじめな税務署員の主人公が弁当を作って出社、何事にも控えめに律儀に仕事をこなしていく。周りの職員は、顧客の接待を受けたり自分のことばかり。そんな彼は、ふとしたことから脱税者の名簿を作る。しかし、それも金を脅し取るためだと知って、ショックのあまり、道に落としてしまい大騒ぎになる。

10人、20人という極端な子沢山の貧乏家族や、原爆を作ろうと躍起になっている娘、芸者に入れ込んでいる一昔前の大物政治家、飛行機で海外に飛び出した中小企業の社長は飛行機事故で死んだりと、何もかも目まぐるしい。

原爆に驚いて、120キロ近くも離れるために走ってみたり、もうコミカルそのものの展開が小気味良い。

結局、差し押さえられた大家族はマグロを食べて一家心中、大物政治家は自殺、原爆を完成させたと聞いて、主人公らが慌てて夜の街を走り出して唐突にエンディング。

呆れるほどの映画ですが、当時の世相を感じるままに脚本にし、映画にしたみずみずしさとリアリティを堪能できる映画でした。


黒猫・白猫
全く、ぶっ飛んだ映画である。とにかく、ドタバタ劇なのだが、画面の隅々までアメリカ映画へのオマージュを含め、監督のオリジナリティ溢れる感性が行きわたっている。監督はエミール・クストリッツァです。

とにかく、映画が始まってしばらくすると、ただひたすら突っ走っていく勢いがついてくる。まさに、アメリサイレント映画のドタバタ劇の如しである。

まず、若者ザーレたちが双眼鏡で行き交う船などを見つめている静かなシーンから始まるが、博打付きのザーレの父が地元のヤクザに有り金を全て取られ、命が惜しくばヤクザの妹で背が小さくてみんなにからかわれている娘とザーレの結婚を迫る。一方結婚式当日にザーレの祖父が死んでしまい。一方ザーレには恋人がいる。

中盤は、この結婚式の場面が様々なドタバタ劇を交えながら描かれていく。まさにノンストップの映像世界に圧倒されていきます。逃げた花嫁が切り株をかぶって森を走っているところへ、マフィアのボスが妙な車でやってきて、その孫が切り株に隠れていた娘が運命の女だと恋に落ちるし、それではそれぞれ好きあった恋人同士で結婚式をとなったら、マフィアのボスが死んでしまう。

それでも、ノンストップなストーリー展開は続き、いざ結婚式となったところ、実は死んでいたと思っていた二人の爺さんは生き返る。そして、何もかもがハッピーエンドになるのですが、細かいエピソードや様々な映像表現は一つ一つ書けないほどに独創的で笑ってしまう。

題名の黒猫、白猫は、途中、シーンのあちこちに現れては消えするのだが、ザーレの結婚式の立会いになるというエンディングで大団円。

全く、どう感想を書き綴ればいいのかわからないほどにてんこ盛りの映像世界に圧倒される一本で、生涯のベストテンと入れる人がいてもおかしくないほど、傑作である。